年末年始に必見!2023年という年が見えてくる映画たち キラキラの『バービー』と、対極の『コンパートメントNo.6』
コロナも開けて、映画館にも行きやすくなった2023年。年末年始にかけて、いろんなメディアで映画に触れる人も多いことと思います。映画雑誌の編集者である岸川真さんが、2023年という年が見えてくる作品を紹介します * * * * * * * ◆2023年をよく知るために必見の映画 読者の皆さんにとって、2023年という年はどんな年だったでしょう。コロナ規制の緩和に伴い、旅行や会食も行えるようになり、足遠くなった映画館へ行く機会も増えたと思います。こう書く私も3年の間に劇場で観た映画の本数は100本に満たなかった(試写会のオンライン化も常態となりました)。 企画・編集者として関わっている映画雑誌での年間ベストテン企画も、その間は回答する有識者の方々でも「劇場に行けていない」という理由で成立しづらい状況でもありました。それが今年は1年でコロナ前の回数に回復。年明けからは各雑誌でも恒例の映画ベストテンも従来通り発表されることでしょう。 そもそもベストテン企画とは、その年に公開された映画の何が面白かったか? というものを示すものです。また単純に映画的な楽しさ、素晴らしさ以外に、公開されている時代をどう切り取っているかという、社会の鏡みたいな選ばれ方もします。今年はどんな年だったのか、という読まれ方ですね。 私は週刊誌から映画雑誌まで関わっている編集者として映画製作者やキャスト、評論家や作家が選んだ2023年ベストテンを先に触れることが出来ました。 いくつもの映画タイトルを眺めて気付かされたのは、「抑圧された期間を終え、今年は様々な社会の変化に応じた映画が公開されたんだな」ということでした。そこで今回はベストテンシーズンに現れるであろう、2023年をよく知るために必見の映画をご紹介しようと思います。
◆『バービー』 マーゴット・ロビーとライアン・ゴズリング主演、グレタ・ガーウィグ監督のロマンティック・コメディです。 今年の8月のアメリカ公開時、原爆開発者であるロバート・オッペンハイマーを描いたクリストファー・ノーラン監督作『オッペンハイマー』と掛け合わせたコラージュ画像(ファンが2作品が同日公開ということに因んで作成したようですが、あまりセンスのないものです)がSNS上で炎上したハプニングが起きました。 この騒ぎで無用な色眼鏡で作品は過小評価された向きがあります。映画自体が強く訴えていたテーマが性差の解消、価値観の多様性の肯定だったのですから残念な結果でした。 監督のガーウィグは〈マンブルコア映画運動〉の俳優として頭角を現した人。マンブルコアとは2000年代以降、盛んに製作されたインディーズ系映画でアメリカの中流家庭に育った若者たちの日常を主に描くというものです。 その代表作であるノア・バームバック監督の『フランシス・ハ』(2012)の演技と脚本がメジャーで注目を浴び、『レディ・バード』(2017)で確固たる地位を築きました。『レディ・バード』はサクラメントに住む、将来に悩みつつトンガッた風に生きる少女を中心に描いた青春スケッチの佳作です。