年末年始に必見!2023年という年が見えてくる映画たち キラキラの『バービー』と、対極の『コンパートメントNo.6』
◆『コンパートメントNo.6』 自分を見つけるアメリカ女性を描いたのが『バービー』でしたが、フィンランドでも女性の彷徨を描いた傑作が作られています。『コンパートメントNo.6』です。ボクシング映画なのに、愛のため試合を簡単に捨ててしまうボクサーを描いた『オリ・マキの人生で最も幸せな日』(2016)を撮ったユホ・クオスマネンの新作です。 1990年代のロシア、モスクワに留学しているラウラが恋人(同性で年上である)と遠くムルマンスクにあるペトログリフを見る為に列車旅行を計画。ところがラウラは恋人に裏切られ、北の果てまで一人旅を余儀なくされます。 乗客がひしめくむさ苦しい寝台車両、共産主義から脱却したばかりで無愛想極まりない女車掌(登場シーンは少ないですが、女性の社会参画が国是であったソ連時代。憂鬱な彼女の態度は現代にも響くものがあるでしょう)、さらには当時勃興し始めたロシアン・マフィアの一員であろうチンピラ、リョーハが同じコンパートメントに居座っているから、傷心のラウラはさらに落ち込みます。 ガブガブとウォッカを飲んで煙草を喫いまくるリョーハは自分を炭鉱労働者だと言い、何かとラウラに話しかけます。彼女も迷惑がりながらも、徐々に彼の粗暴さに隠れた優しさに気がつき、心を寄せ始めるという流れです。
◆手仕事の温かみを感じさせてくれる とにかくロシアの地方都市の寒さと暗さ、貧乏を隠さない、うら悲しい街なみが『バービー』とは対照的です。 ラウラがレズビアンである自覚からリョーハを一度は拒むものの、性差を超えた恋愛とも違う感情(色恋を超えた濃厚な友愛のようなもの)で結びついていくドラマは胸を打つものがあります。リョーハの母と大酒を飲んで列車に乗り損ないそうになったり、互いの似顔絵を描いて遊ぶ場面のキュートさも必見です。 恋を失ってしまった人と過酷な労働を背負わなくてはいけないアウトサイダー、性差と国籍の違う奇妙なカップルが僻地中の僻地へ行って見つけたもの。観る人の胸にそれぞれイメージすることが違う、しかし観客の想像で補う隙間の多い映画になっています。 その隙間の魅力は作り込まれたハリウッド大作にない、手仕事の温かみをも感じさせてくれるでしょう。
岸川真