社会全体が“同意”した愛人関係。小児性愛嗜好を持つ作家と少女の実話を映画化した『コンセント/同意』
社会全体が「同意」した14歳の少女と50代の作家の愛人関係
このようなマツネフの行為がなぜ許されていたばかりか、称賛され、また1975年に始まった人気テレビ文芸番組「アポストロフ」に6度にもわたって出演することができたのか。劇中ではこの番組のほか、時の大統領の覚えもめでたかったこと、またフランスの知識階級、エリートたちがマツネフの作品を理解できる「自らの優れた審美眼」に酔いしれているかのような姿も映し出される。 一方で、道ゆく人々はマツネフに対して眉をひそめ、当初はスプリンゴラの母親もマツネフは「変態」だから近づくなと娘を叱っていた。しかし、すぐに母親は文学界の寵児たるマツネフにひれふす。そうすることが知的な人間がする行為とでも思い込んでしまっているのか、あるいは、父親の不在につけ込み、母親に対しては娘の保護者であり、また夫の代わりでもあるかのようにふるまうマツネフの巧妙なグルーミングの常套手段に乗せられたのか。 映画業界でも少女たちをセクシュアルに映し出す、「ロリータ」趣味が流行した時期がある。いや、そうした傾向は今でも認められるかもしれないが、当時の社会的背景として、特にフランスでどのようにマツネフが持てはやされていたのかは、そうした映画を通してもよくわかるはずだ。 マツネフ本人が犯罪者であることは間違いない。しかし、フランス文学界、マスメディア、そして周囲の大人たちや母親も含めて、当時の社会全体がスプリンゴラとマツネフの愛人関係に「同意」したのである。
【画像】フランス文学界のスターとして、長年君臨し続けた作家ガブリエル・マツネフ。小児性愛嗜好を隠すことなくスキャンダラスな文学作品に仕立て上げ、時代の寵児となった。性的虐待やパワハラによって数々の少年少女たちの人生を破壊してきた忌むべき人物を演じるのは、国民的人気ドラマ『女警部ジュリー・レスコー』や映画『セラヴィ!』などに出演するフランスのベテラン俳優、ジャン=ポール・ルーヴ。