社会全体が“同意”した愛人関係。小児性愛嗜好を持つ作家と少女の実話を映画化した『コンセント/同意』
数々のメディアで執筆するライターの今祥枝さん。本連載「映画というグレー」では、正解や不正解では語れない、多様な考えが込められた映画を読み解きます。今回は、小児性愛嗜好を持つ著名な作家と少女の実話に基づく『コンセント/同意』です。 【画像】大人が今見るべき映画【今祥枝の映画というグレー】
【画像】マツネフを喜ばせるために、すべてを捧げるヴァネッサ。ヴァネッサ・フィロ監督は、性的暴力の表現をやわらげることなく、肉体的、精神的虐待を描き出す。それは映画の観客も覚悟を要する表現だろう。
小児性愛嗜好を持つ著名な作家を告発した問題作『同意』の映画化
2020年1月に出版された1冊の本が、本国フランスで大論争を巻き起こした。編集者のヴァネッサ・スプリンゴラ(出版当時48歳)が著名な作家を告発した問題作『同意』だ。 スプリンゴラが作家「G.」に出会ったのは13歳のときだった。「G.」は50歳だった。スプリンゴラの両親は離婚しており、出版社に勤めるリベラルな母親とその友人の大人たちに囲まれて育った彼女は、母親に同伴した席で彼の視線を感じる。思えばこのとき、文学が好きで、内気な少女だったスプリンゴラを「G.」は小児性愛嗜好である捕食者として“獲物”と定めたのだろう。それからは学校の前で待ち伏せをし、文学的で情熱的な愛の手紙を数多く送り、家庭でも学校でも孤独な少女の心の隙間に入り込んだ。やがて、スプリンゴラを学校や家庭から引き離し、彼女が14歳のときに自分の愛人にした。 この小説に書かれている「G.」とは、フランスの作家ガブリエル・マツネフ。1970年代以降、規制の道徳や倫理に反逆する風潮の中で、定期的にフィリピンへ買春旅行に出かけるような小児性愛者であることを隠さず、公の場に年端もいかない少女たちを“愛人”として連れ歩き、自身の小児性愛の体験を題材にした作品で名を馳せた。彼と数年間にわたり性的関係を持ったスプリンゴラが、一部始終を「物語」としてつづった『同意』を映画化したのが本作だ。
【画像】13歳のときに、母親に同伴した席で著名な作家ガブリエル・マツネフと出会った少女ヴァネッサ。巧妙な手口で「自ら恋に落ちた」と信じ、彼との関係にのめり込んでいく。注目の若手俳優キム・イジュランが、13歳から18歳までのヴァネッサを好演。