アルバルク東京の迅速な搬送に見る「進化するBリーグの安全体制」【バスケ】
ストレッチャー導入で高まる安全管理体制
改めて、冒頭で紹介した搬送について振り返りたい。A東京ではEAPに定めた人数と共にタイヤ付きストレッチャー、スクープストレッチャー*、AED、観客のフラッシュバックを避けるため暗幕などフル装備で搬送に当たった。万全を期しての対応だったからこそ、速やかな搬送ができたのだろう。しかし、その搬送作業中に新たな事故が起こる可能性もある。細谷さんは「ストレッチャーを使用し、元々決めた場所にあるべきものがなくなるため、医務室にあった代替のものをその場所に置くことにしました」とその場での対応を説明した。可能性で言えば、客席で問題が起きてストレッチャーを使い、選手たちの事故に適切な対処ができなくなることも考えられる。 *選手の体の下に差し込んでスクープする(すくい上げる)ように体を持ち上げることができる担架の一種。主に脊髄損傷を疑う人を搬送する際に使用される B.LEAGUEの現状を見ると、実はまだタイヤ付きのストレッチャーを具備されていない会場もある。そんな中、今回、医療機器の専門商社である松吉医科器械株式会社がSCS推進チームに協賛することが決定。同社は新たにTEAM SUPPLY事業部を立ち上げ、それも機に各クラブにタイヤ付きストレッチャー、スクープストレッチャーのセットを提供されることが決まった。 「弊社は『人々の健康と幸せへの貢献を使命に』という経営理念を掲げております。B.LEAGUEは、JBAが掲げている『バスケで日本を元気に』という理念のもと活動しており、その理念に共感しました。来場者や選手の安全管理対策を行っているSCS推進チーム様の存在を知り、医療機器の専門商社として安全に貢献できることがあるのではと考え、微力ではございますが貢献できればと考えております」。そう語ったのは、太田寛幸専務取締役だ。同社では、医療分野から健康をキーワードとした事業に踏み出す過程にあり、前述のスポーツセーフティージャパンと会話する中で、B.LEAGUEの安全に貢献できるのではないかという考えに至ったと説明している。 松吉医科器械からの提供によって、B.LEAGUE の安全環境が大幅に向上することは間違いないだろう。すでに2種類のストレッチャーを持つA東京ではあるが、細谷さんは運営目線で「ありがたい話です。(ストレッチャーの数は)多いに越したことがないというのが本心です。例えばコート近くに加えて、客席の近くにも配備できれば、より安全を担保しやすくなります」と語る。また五十嵐さんはトレーナー目線で「まず搬送時の事故が減るはずです。そして、今回のサポートにより各チームの救護体制の物品が充実することで、B.LEAGUE全体で安全体制が向上し、今まで会場によって差があった部分がなくなり、安心してアウェーゲームにも臨めるようになると思います」とプレーにも影響を与える可能性があると指摘した。 またB.LEAGUEの島田慎二チェアマンは「B.LEAGUEとBクラブは、インテンシティを増すオンコートでの選手の安全と、入場者数が伸長する中で来場者の観戦時の安全の双方を守る責務があります」としたうえで、「体格の大きな選手の搬送、お客様を狭いスペースから安全に救い、搬送する難易度は実は高いものです。今回、松吉医科器械様には搬送資器材をご提供いただき、安全性を確保する搬送資器材が充実することはとても重要であり、さらにそれをすべてのBクラブへ行き届かせられることは、リーグにとって大変心強いものであります」と謝意を表現。続けて、「『ヒト・モノ・体制』の取り組みは、ある程度網羅的に進行できていますが、この領域に終わりはありません。前進したがゆえに見えてくる課題もあります。選手が激しく戦い、お客様が楽しんで観戦してくださり続ける限り、その安全をより適切に確保していくことがリーグやクラブの責務であり続けます。今後はさらに知見と実技を広め、深め、命を守れるリーグであり続けたいと考えております」と今後も先頭に立ってこの分野に取り組んでいくと強調した。 今後について、五十嵐さんは「この分野に関しては、言われてやるのと自主的にやるのでは大きな違いがあります。やはりアクションを起こすべきは、現場の人。いかに全体で周知できるかは各クラブの課題になると思います。我々A東京は、周知できている方だと自負していますが、足りない部分も感じています。そこを補い、もっと安全を担保できる体制を作っていきたいと思います。また、もっとこういったことも発信すべきだと思っていて、それが選手にしても来場者にしても、クラブへの信頼度につながると考えています」と語り、各クラブが能動的にやっていく必要があると課題を示した。そして細谷さんは「簡単なことではないですが、興行を行う上で決して特別なことではなく、基本的なことだと感じています」としたうえで「SCS推進チームの働きかけもあって、昨シーズンから試合前にEAPハドルが設けられ、相手チームのトレーナーさんともコミュニケーションが図りやすくなりました。運営としては、安心できる会場作りを目指してやっていますが、ホームはもちろん、アウェーチームの選手やファンの方にもそう感じていただけることを目指して頑張っていきたいと思います」と発言。現状に甘んじることなく進んでいきたいと強調した。 今回、松吉医科器械によって“モノ”の部分がプラスされたことは、大きな一歩ではある。しかし、島田チェアマンの言葉のとおり、この領域に完璧はないし終わりもない。安全のためにはさらなる充実を図る必要があるし、それらをうまく生かすための“ヒト、体制”については、常にアップデートすることが大切となる。 取材協力=Bリーグ