sulvam──世界が注目する日本のアーティザナル・デザイナーたち
職人として、あるいはデザイナーとして職人を讃えながらアルチザン的なものづくりで国内外から支持を集める5つのブランドのクリエーションをひもとく。 【写真の記事を読む】職人として、あるいはデザイナーとして職人を讃えながらアルチザン的なものづくりで国内外から支持を集める5つのブランドのクリエーションをひもとく。
クチュリエが3日かけてつくるシャツの価値
サルバムのデザイナー藤田哲平は、2022年、パリにアトリエを設けた。2019年春夏シーズンからパリコレクションに参加するようになり、どうせならば現地に拠点を構えてしまおうと思ったこと、また、パリは昔から好きな街であり、ここでパターンをひいたら、今までとは違う感覚で服づくりができるかもしれないと考えたことがその理由だと藤田は言う。また「ゆくゆくはアトリエ兼ブティックにしようと考えていた」と話すとおり、そのアトリエは一部をブティックとして改装し、この9月、グランドオープンする予定だ。展開されるのは、パリだけのエクスクルーシブなアイテム。「僕は東京とパリを行き来しなければいけないため、パリのアトリエは、長年パリに住んでいる日本人のクチュリエに任せています。彼女は以前、パリのテイラーでも働いていて、その技術は、メゾンのクチュリエと比べても引けを取らないほどの腕前だと思っています。だから、このブティックでは、サルバムのシーズンコレクションはあえて置かず、彼女がここでつくる手仕事が利いたものを並べていこうかと」。その中心は、クラシックな白シャツである。なんとアトリエのクチュリエが1枚仕上げるのに3日ほどかかるという手の込んだつくりのものだという。 今後はクチュリエが仕立てたジャケットなども展開していく予定だというが、まずシャツを選んだのはなぜか。そう聞くと「僕のなかでシャツって下着みたいなもの」と藤田は答えた。「一番肌に触れるものなんですね。だから、僕のなかで着心地を大切にしたいアイテムなんです。自分にフィットするものがいいし、きれいに仕立てたいものであるのがシャツ。また、パリは1枚の気に入ったシャツを何十年も着ているような人もたくさんいる街。新しいものをどんどん買い直すのではなく、愛着を持って1枚のシャツを着る人が多い。そこで、自分たちがつくる、エクスクルーシブなシャツを試してもらいたい、とも思ったんです」 実際のシャツの制作では、藤田がひいたパターンに基づき、生地を裁断、ミシンで地縫いして、あとは手で縫っていく。こうした手仕事の味が特に実感できるのが着心地だと藤田。「手縫いだと、その力加減で、生地と生地のあいだのゆとりを調節できるんですね。例えば、肩の部分のテンションをやや甘めにしておけば、腕を動かしやすくなったり、体にフィットしやすくなったりする。プロが一針一針縫ったものとそうでないものの違いは、そうやって袖を通し、肌に触れたときに一瞬でわかるものです。また、熟練したクチュリエが縫製した服には、独特の空気感が生まれるもの。佇まいが違うというか。そのすごさ、その価値についても、こうしたアイテムを通してパリのアトリエから伝えていきたいこと」。このクチュールアイテムの存在は、藤田自身にも良い影響を与えているようだ。「このパリでの服づくりもあって、今、デザインしたいもの、つくりたいものが僕の頭の中であふれているんです。その影響は既存のサルバムのコレクションにもいい形で表れてくると思います」 sulvam 藤田哲平が2014年にブランドを設立。藤田は1984年、千葉県生まれ。ヨウジヤマモトでパタンナーとして経験を積んだ。2014年TOKYO FASHION AWARDを受賞。2017年には、LVMHプライズのセミファイナリストにも選ばれた。2019 年春夏シーズンからパリコレクションに参加。