デニムづくりを通じてものの価値を問い直す:「ITONAMI」
ー回収期間を設けているのは、なにか理由がありますか。 前年度の回収量は、およそ5,000本になります。これは再生デニムの製品にすると2,500本分に相当します。それなら期間を設けず、常に回収したらどうかと思われるかもしれませんが、私たちの規模感だと限定したほうが良いのです。 いつでも開催しているイベントより、週末限定のイベントのほうが人が集まるのと同じ論理ですね。期間を設けないと、お客様もデニムを持ってくる動機がつくりづらいと思っています。 いずれこのプロジェクトが大きく広まった際には、常に回収を受け入れようと考えています。
自分にとって価値あるものを
ーITONAMIの活動として、今後挑戦されたい事業などはありますか。 兄弟2人で始めたころからメンバーも増えまして、この数年間はITONAMIの基礎を作っていく期間だと考えています。具体的には、宿泊施設を軌道に乗せることを意識していました。おかげさまで、この冬に2号店のオープンも控えています。 宿泊施設ではお客様に食事を楽しんでいただいたり、デニム染めの体験や工場見学のツアーを行ったりしていて、魅力的に過ごしてもらうことを中心にした中身づくりを進めてきました。 ブランドを立ち上げ、宿泊施設の運営も始まったことで、次になにができるのかと模索しています。海外も含めて、他の地域の人に岡山の産業の魅力に触れてもらいたいと思っています。そのために、ミュージアムを作るとか、ツアーを企画するとか、いろいろな方向に可能性があると思っています。 そのためにも、まずはFUKKOKUプロジェクトで新しい製品を作ったり、他の企業様とコラボレーションをしたりして、魅力をどんどん発信していきたいと思っています。 ーご自身のブランドも含めて、ものに対する価値観をお聞かせください。 私たちは売る身ではありますが、お客様には自分なりの基準でものを選んでほしいと思っています。ものを買うときには、デザインが気に入っているとか、作り手の思いに惹かれたとか、さまざまな理由があるはずです。その確固たる理由を自分のなかで持ってほしいですし、広告などに踊らされて購入することはもったいないと感じています。 いまではリサイクルショップも増えてきて、自分の色を付けなければいい値段で引き取ってくれることもありますが、最初から売ることを考えていると、ものを持つ価値観や一緒に過ごす時間の充実感が薄まってしまうと思います。 そうではなく、ものを持つ魅力自体をもっと感じてほしいですね。私の場合は、それがデニムでした。デニムを着込んでいくことで、自分なりの折り癖や色合いに変化していくので、他人にとってはまったく価値がないけれど、自分にとっては大切な存在になっていきます。 大げさかもしれませんが、いまの時代に自分にしか価値のないものを持てるのは幸せなことですし、そういうものを一人ひとりが持てるようになったら気持ち的にも豊かになる、ひいては豊かな社会に繋がると思っています。