『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』が、働く現代人に刺さる理由。三宅香帆さんインタビュー
「全身全霊で働く社会」から「半身で働く社会」へ
―三宅さんは本を通して、「全身全霊で働く社会」から「半身で働く社会」を勧められています。私自身すごく仕事に一生懸命生きてきているんですが、仕事をアイデンティティに感じることに対して冷静になろうと思えたことは、この本からいただいたすごく素敵なギフトの一つでした。 三宅:嬉しいです。全身全霊で仕事をしている時期も当然あっていいと思うんですが、やっぱりどこかでバランスを崩しやすくなってしまうのではと思います。バーンアウトというか、体調や心身の健康を崩してしまう可能性もあるので、仕事は自分のすべてではないんだというか、「全身全霊でやらなくてもいいんだ」ということを覚えておくだけでも全然違うのかなと思うんです。 働き方って、いまの日本社会のなかですごく大きな問題なのに、その割に意外とまだまだ手がつけられていないのではないかと思っています。週5で働いて、残業もして、土日も疲れているから子育てどころか婚活もできない、みたいな話を友だちとよくしています。ハラスメントやメンタルヘルスの問題も、過労が原因になってしまう面があるんじゃないかと思います。 過労になってしまう前にちょっと休めるような状態の社会になってほしいなと私はすごく思うんですが、働き方についての考えって変えるのがすごく難しくて、「いまのままでいい」とみんなたぶん思っていないけど変えられていない、みたいな状態なのではないかと思います。 その意味で、少し上の世代からは働きながら趣味の本も読む生活なんて贅沢だよと思われるかもしれないんですが、私は働きながら本が読める社会のほうが、少子化とかメンタルヘルスとか、いろんな問題を解決していくのではってすごく思っているんです。 ―上の世代からの「若いうちは忙しくて当然」みたいな眼差しってありがちだと思うんですが、それは全身全霊で頑張れる人と、全身全霊でケア労働してきた人という役割分担があって成り立っていたことでもありますよね。共働き世代が増えている時代で、新しい世代が頑張って伝えていくことが必要なのではないか、と思います。
インタビュー by 生田綾、南麻理江