『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』が、働く現代人に刺さる理由。三宅香帆さんインタビュー
自己啓発書を揶揄するような風潮、「インテリvs自己啓発」の繰り返される歴史
―自己啓発書の歴史についても綴られていて、三宅さんの自己啓発書に対する眼差しがすごく新鮮でした。『花束みたいな恋をした』では、書店の自己啓発書のコーナーに行った麦くんを、文芸好きの絹ちゃん(有村架純)は冷ややかな目で見る。この本の中でも、インテリ層が自己啓発的な雑誌に走る人をスンとした目で見るような描写が紹介されています。カルチャー好きやインテリ層が、自己啓発書を読むクラスターをどこか避けたり揶揄したりするような風潮は長らくあると思うんですが、三宅さんはそういう書き方をしていなくて、すごく目を覚まさせられるような感覚になりました。 三宅:私自身は小説が好きなんですが、明るい話がすごく好きなんです。ちょっと仕事で落ち込んでいるとき、明るい漫画や本を読んでいると頑張ろうという気持ちになったりします。そういった欲望は、自己啓発書に対して人々が求めているものと変わりがないんだろうなと前々から思っていたんです。 でも、一方で自己啓発書と自分が読んでる小説が同じジャンルなのかというと、そうなのだろうかと疑問に思ってもいる。もしそこに違いがあるとしたら何なんだろうと結構前から考えていたんですが、紐解いてみると、「インテリvs自己啓発」の歴史がずっと繰り返されていて、そろそろやめんかみたいな気持ちになってしまって(笑)。 ―(一同笑) 三宅:やっぱり働いていると、「明日頑張ろう」と思えるものは大事だと思うんです。自己啓発書のような自分のテンションを上げてくれるような存在はやっぱり大事だとすごく思うんです。一方で、それだけじゃなくて、もっとノイズが入ってきたほうがいいとも思うので、働く人のテンションに寄り添うような小説とか本がもっと増えてほしいなと思います。 ―働いてる人の気分に寄り添う小説は、具体的にどんなイメージですか? 三宅:『私たちの金曜日』(KADOKAWA)という働く女性をテーマにした短編小説のアンソロジーを読んだとき、働く女性をテーマにした小説って意外と少ないかもしれないと思ったんです。オフィスで働く女性や、仕事で役職がついて大変だけれど頑張ろうと思えるような女性の物語がこれからどんどん増えていってほしいし、需要があるんじゃないかと思います。