「動けない大国」アメリカの行方 第1回:“弱腰”オバマ外交 覇権は終焉か /上智大学・前嶋和弘教授
(3)シリア危機以降の迷走
ただ、現実的な外交は、どうしても受け身型となりがちだ。特に冒頭にふれたシリア危機の宗派対立のように、複雑で長期化するような背景を持つような国際情勢に対しては、オバマ外交は弱腰外交に映ってしまう。 このシリア危機のオバマ政権の対応こそ、もしかしたら、数年後に「あのときが節目だった」といわれるようになるのかもしれない。 実際、その後のオバマ外交は迷走する。今年2月末のロシアのクリミア侵攻以降のウクライナ情勢への対応でも、後手に回り、ロシアのプーチン大統領に押し切られ続けている。さらに、今年春から本格化してきたイラクでのISIS(イラク・シリアの「イスラム国」)の台頭になかなか手を打てず、オバマ大統領は今年8月に入ってからようやくISISの拠点であるイラク北部への空爆を命じたが、遅きに失した感がある。 「2011年のイラク撤退がそもそも拙速すぎたのではないか」という批判がアメリカ国内だけではなく、世界中からあがっている。オバマ政権1期目の国務長官だったヒラリー・クリントンが「オバマ政権が早い段階で穏健派のシリア反政府勢力を積極的に支援しなかったことがイスラム過激派の台頭につながった」と雑誌『アトランテック』のインタビューで述べたように、“身内”からの批判も出てきた。 ※この連載は5回続き。第2回「過去のアメリカ外交から見たオバマ外交」はあす22日(金)に掲載予定です。