【韓国】釜山映画祭が大衆化、OTT映画を開幕作に
韓国釜山市で今月2~11日に「第29回釜山国際映画祭」が開催された。開幕作は韓国制作のネットフリックス映画「戦と乱」。劇場公開を前提としないインターネット配信の「オーバー・ザ・トップ(OTT)」の映画が開幕作に選ばれたのは初めてで、映像コンテンツ市場の変化を象徴する年となった。【芳賀恵】 「戦と乱」は朝鮮時代を背景にしたアクション映画で、日本でも今月11日から配信されている。 同映画祭はこれまで芸術性の高いアジア圏の映画を開幕作に選定してきたため、大衆的なOTT作品を選んだことについて韓国の映画人からは反発もあったという。これについて映画祭の朴光洙(パク・グァンス)理事長は聯合ニュースなど国内メディアとのインタビューで「開幕作は一般市民も見るため、分かりやすいものにすべきだ」と答えている。 開幕から週末までの前半は大衆的な商業作品を主に上映し、後半に低予算のインディペンデント映画をまとめて上映するプログラムとなっていたのも、そのためだと考えられる。 もう1つ、市場の変化を示すのが映画祭の共催イベント「アジアコンテンツアワード&グローバルOTTアワード」だ。2019年に始まり、テレビドラマなど映画以外の映像コンテンツを表彰するものだが、昨年から「グローバルOTTアワード」の文言が加わり、ノミネート作品も配信ドラマの割合が高まっている。 ■進む映画館離れ OTT市場が拡大する一方、韓国の映画館市場は低迷が続いている。映画振興委員会の集計によると、24年上半期の観客数は6,293万人で前年同期比7.8%増とプラスを確保したものの、新型コロナウイルス禍以前の17~19年同期の平均(1億99万人)と比較すれば62%の水準にとどまる。興行収入で見ても、今年上半期は6,103億ウォン(約673億円)と、17~19年同期の平均の73%水準だ。 映画産業に投入される韓国政府からの支援も縮小している。釜山映画祭の場合、今年の支援金は6億1,000万ウォンで、昨年の12億8,000万ウォンから半減した。こうした環境下で、映画祭の運営側としては、観客を呼び込める大衆映画の上映が必要不可欠になりつつある。 釜山映画祭は「アジアの新たな才能の発掘」を掲げ、一般公開が難しい作品を紹介してきた。1996年のスタート当初は日本大衆文化の開放前にもかかわらず日本映画を積極的に上映するなど、社会通念に対抗もしてきた。しかし、世界中のコンテンツに容易にアクセスできるようになった今、その役割は大きく変化しているようだ。