不評だったサントリーホール 世界的音響設計家、豊田泰久さんが追及してきた「響き」
サントリーホールをはじめとする世界有数のコンサートホールの「響き」を手がけ、世界的な音楽家からの信頼も厚い音響設計家の豊田泰久さん(71)が母校の九州大で講演した。40年超の活動を振り返りながら語ったのは、変わったことと変わらないことだった。 【写真】サントリーホールで20年ぶりに東京公演を行った九州交響楽団 九州芸術工科大(現・九州大)の音響設計学科で学んだ豊田さん。担当したホールは、ミューザ川崎シンフォニーホール、米・ロサンゼルスのウォルト・ディズニー・コンサートホールなど国内外で80を越える。 講演では、世界最高峰の楽団ウィーンフィル(オーストリア)が本拠地とする1870年完成のウィーン楽友協会大ホールを例に「音響は室内の形と材料で全て決まる」と説明した。「シューボックス型」と称される長方形の狭い横幅と、高い天井が理想的な反射音と残響音を得るのに有効だとし、「ホールを設計する上で一つの大きな目標」と語った。 一方で同ホールは座席数が少ない。収容人数増と良い響きの両立が求められる現代のホールの音響設計を「シューボックス型からの脱皮へのチャレンジ」と表現した。豊田さんは主に段々畑状の客席が舞台を囲む「ヴィンヤード型」を採用し、客同士の顔が見える親密感にこだわる。「舞台を囲んだ聴衆が感動を共有できる」と明かす。 ♪ ♪ 音響設計の世界に40年以上身を置く中で起きた大きな変化として、1995年のウィンドウズ95の登場を挙げる。手作業でやれる範囲でやっていた複雑な音の反射の計算が数十秒で可能になった。ただ、技術革新が進んでも最終的な判断をするのは「人」だと強調する。 「コンピューターがいいホールです、悪いホールですと答えを出してくれるわけではない」 変わらないことはまだある。ホールを響かせるのも人だという点だ。良い音響は良い演奏があって初めて成り立つ。 サントリーホールは開館当初、国内の演奏家から「音が聴こえない」と不評だった。原因は「慣れ」。それまでのホールと異なる形状にプロでも対応にとまどったという。3、4年かけて慣れると不満の声は消え、むしろ高く評価された。「今でも完成直後のホールでは同じようなことが起こる」と紹介した。 ♪ ♪ ロサンゼルスやパリでの勤務を経て日本に拠点を移した。2021年から故郷・広島県福山市の芸術文化財団理事長に就任。ホールの利用率の低さを解消する活性化策として、本年度から広島交響楽団と京都市交響楽団を招き、定期演奏会を開く企画を始めた。 プロのオケを定期的に招いて市民が上質な演奏に触れる機会を増やすと同時に、地方のプロオケの演奏機会も増やすこの取り組みに興味を持ち、話を聞きに来た団体も出始めている。 「他の地域でもどんどんまねしてほしい。そうしたら地方のオーケストラももっと元気になるんじゃないかな」 音響設計の世界をリードしてきたように、「福山モデル」が地方の公共ホールの新たな道を切り開くかもしれない。 (佐々木直樹)