ハンブレッダーズ日本武道館公演、声なき人の声を代弁したロックミュージック
「ぜんぶ台無しにして帰りましょう!」
「バンドを続けてきたからこそ、歌える音楽もあると思う。『東京』という曲をやります」 2021年6月頃に大阪から東京へと上京したムツムロが、東京での生活を経て感じたことを綴ったこの1曲は、彼のストレートなきもちが綴られた1曲だ。 繰り返しの毎日 特別なことなどない だけど想像したほど めちゃくちゃ悪くもない 東京に来てわかったことが 一つだけあった 僕が本当に本当に願うのは ド派手な成功じゃなくて お金や権力じゃなくて 君と朝ごはんを食べることさ 先にも書かせてもらったが、ハンブレッダーズはこれまで、ありふれた生活や暮らしのなかで生まれた喜怒哀楽/感情の揺れ動きを、ギターの爆音に乗せて歌ってきた。だからこそ、「普通のひと」であることから大きくズレることなく彼らは歩んできた。 ときに大げさな振る舞いをし、ヘンな妄想を膨らませたり人並みに哀しみ、怒り、喜ぶ感情を、大げさにしすぎることなく音に表現する。 パンクすぎず、メタルすぎず、ラウドにしすぎず、エレクトロにもしすぎない。シンプルかつソリッドなギターロックに、平々凡々とした自分自身の感情や心の移ろいを乗せて歌う。生活や暮らしを生きるひとのためのロックミュージック、それがハンブレッダーズの音楽であろう。 「東京」にはそんな彼らの本懐が詰まっていると言っても過言ではない。同時に、「東京」の演奏・パフォーマンスをみていて、ムツムロはこの日集まった会場の観客にメッセージをぶつけることにフォーカスしていたのだと溶けるように理解した。 ハンブレッダーズの楽曲には、ムツムロ以外の3人も一緒に歌う合唱パートが入ることが、他のバンドに比べて比較的多い。3人の合唱にあわせて観客も一緒に大声で合唱するのもお決まりなのだが、最新アルバムのタイトルソングであり1曲目「はじめから自由だった」は、その最新型と言えるもの。ドラムのフィルインから勢いよく始まるこの曲、途中の「はじめから自由だった!ぼくら!」という部分をバンドと観客が合唱する。1万人近い観客が、一体となって会場をゆらし、この日のライブを楽しもうとしていた。 続く「グー」は、この日のライブに訪れた観客や、先輩・後輩バンドに「ロックバンドってなんだと思いますか?ベース、ギター、ドラムのある形、たぶんそれだけじゃないと思う。奇抜な見た目で破天荒なことをすることでもない。ロックバンドっていうのは、声を出せない人の代わりに言えること。声なき人の声を代弁することだと思います」そう語りかけて歌い始めた。 いま目覚めたパンクな気持ち 戦うためじゃなく 握りしめたグー 躓いたりひん曲がったりしながら 生きてゆく 自由や反抗心を込めた2曲を歌うムツムロ、そこに込められたメッセージのしたたかさたるや。そこには、生活や暮らしを生きるひとのためのロックミュージックが確かに光り輝いていた。 本編最後は「フェイバリットソング」。自分がボーカルをとらなくてもみんなが歌ってくれるだろう、そう思ってかサビの途中で歌うのをやめて観客を見上げると、ムツムロの全身に大合唱が覆いかぶさるように響いた。 本編を終えてからすぐに始まったアンコール。「ぜんぶ台無しにして帰りましょう!」とムツムロがMCし、この日最後の曲として始まったのは「チェリーボーイ・シンドローム」だった。 ストリーミングでの配信がされていないインディー時代のレアな1曲で日本武道館での公演を締める。この選曲には「メジャーになっても、よりビッグな存在になっても、僕たちは変わらずにやっていく」というバンド4人からのメッセージが込められていたようにみえた。 終演をむかえ、照明がつく。約1万人近い観客たちは、踵を返すようにして自分の家へと向かっていった。ハンブレッダーズは今日の日本武道館公演のようなライブを、また近いうちにできればいいと語っていた。夢を夢としてみるのではなく、あくまで現実のなかで捉えられる“近しい未来”としてみる。そのスタンス・姿勢・視線は、長くバンドを続けてきた者だからこその気骨さに溢れたものだろう。 きっと近いうちに、もしかすればもっと大きな場所でライブをする彼らが見れるかもしれない。そんなことを思いながら、半蔵門線の電車から代々木上原に向けて歩を進めた。 <ライブ情報> 「ハンブレッダーズ ワンマンライブ 放課後Bタイム ~15th Special~」 2024年10月9日(水)日本武道館 ハンブレッダーズ「秋のグーパンまつりZ 2024」 2024年11月13日(水)福岡県 Zepp Fukuoka 出演:ハンブレッダーズ / 04 Limited Sazabys 2024年11月20日(水)北海道 Zepp Sapporo 出演:ハンブレッダーズ / UNISON SQUARE GARDEN 2024年11月26日(火)愛知県 Zepp Nagoya 出演:ハンブレッダーズ / サンボマスター 2024年11月27日(水)大阪府 Zepp Osaka Bayside 出演:ハンブレッダーズ / マカロニえんぴつ 2024年12月5日(木)東京都 Zepp Haneda 出演:ハンブレッダーズ / 凛として時雨 チケット:前売1F(スタンディング)5800円、2F(全席指定)6300円(いずれもドリンク代別途要) Official HP:
Kou Kusano