ハンブレッダーズ日本武道館公演、声なき人の声を代弁したロックミュージック
一気にあがっていく会場のボルテージ
ハンブレッダーズといえば、愛しき人へのラブソング、社会への苛立ちをこめた曲、自身の夢や理想を描いた曲、どんな曲であっても日常的な言葉を織り交ぜた筆致をみせてくれていた。生活感ある描写やボヤッとした心象を歌うことも多く、しがない一般人・庶民である僕らの目線に近く、心に寄り添う歌を生み出してきた。 そんな彼ららしく、ここからはシンプルでソリッドなギターロックで一気に畳み掛けていった。 4曲目「再生」の力強いビートとギターサウンドで、音楽の「再生」ボタンとさまざまな日々を送って曇った心の「再生」とをかけ合わせた言葉に血が通っていく。音楽への愛情を人生の中にあるワンシーンになぞって歌うところに、いつかあった日々を思い出してしまいそうになる。 武道館の景色はどう?と尋ねられ、でらしが「いやぁ、やっぱりこの景色めっちゃ『いいね』」と言葉を発して始まった5曲目「いいね」から次曲「常識の範疇」へと、音楽や映画を歌詞のモチーフに取り込みながら、自身の暮らしに音楽がともにあることをアップテンポに歌っていく。 7曲目「席替え」は、誰しもが学校生活で妄想したあんな話やこんな話、いつもの風景や勘違いが盛り込まれた学生の風景を捉えた1曲だ。ちょっとした恋模様をミドルテンポで描いたこの曲を、体を横に揺らしながら聴くファンがとても多い。じつはこの曲、2016年に発売ライブ会場と一部CDショップ限定で販売されたミニアルバムに収録されている曲であり、今はYouTubeでしか聴くことのできない1曲なのだが、アルバムもしっかり追いかけている熱心なファンばかりなのが伝わってくる。 ヨコノリのムードと学校をモチーフにした歌詞を受け継ぐように、続く曲は「十七歳」。移ろいやすい心模様、物わかりの良さが葛藤となって描かれる。シャッフル気味にハネるグルーヴ、ギターとベースで受け渡されるソロ回し、タメてからの合わせ方、さらに曲の締めかたに至るまで、意外なほどクラシカルな意匠で固められたロックンロールなのだが、サラッと歌ってくれるのが彼ららしさだろう。 そこから8ビートを強く押し出した「見開きページ」では、ステージの大型スクリーンに左から右にページをめくる演出とともにと会場で演奏するメンバー4人の姿がそれぞれ映し出される。この曲も学生生活を思わせつつ、日常パート・伏線・「…」・4コマ漫画など、漫画にまつわるモチーフ・テンプレが込められた1曲ということで、学生ノートにも漫画の単行本にも見えるという映像演出が心憎い。 つづいて披露した「名前」は、彼らの楽曲でも指折りのラブソングだ。ムツムロとukicasterの2人によるギターのアルペジオで心地よく響く音色とともに、大型スクリーンには細い筆を使ったペインティングがムービーとして流れはじめる、ミュージックビデオ制作の際に、画家の近藤康平がライブペインティングを行った様子を捉えたあのムービーだ。言葉ひとことにメロディも一音ずつはめられ、それをムツムロが明瞭なボーカルで歌っていく。歌い終えたあと、近くで鼻をすする声がハッキリと聞こえた。 続いて披露したのは「AI LOVE YOU」、サイバー感のあるカラフルな演出映像が流れるなか、ダンサブルなビートが会場を揺らしていく。先程までは誠実なボーカルで観客の心を揺らしていたが、この曲では声にエフェクトがかかっていたという対比も面白い。同じくダンスチューンである「DANCING IN THE ROOM」は、ベースのファンキーな演奏とギターカッティングが映える魅せ場となり、大いに盛り上げてくれた。 ムツムロは「楽しいです!」と語り始め、先輩のライブで先に武道館を経験していたukicasterをイジり、『けいおん!』をキッカケにしてライブタイトルを「放課後Bタイム ~15th Special~」としたことを語りつつ、「じゃあ後半~」とMCの空気をガラッと変えるように「サレンダー」を演奏し始めた。新作アルバム『はじめから自由だった』のなかでも、ソリッドなギターリフがリードするこの曲に、一気に会場のボルテージが上がっていく。 最新曲「フィードバックを鳴らして」を演奏しおわると、メンバー3人がステージからいったん降り、ドラムス・木島によるソロパートへ。シャープなドラミングで大いに沸かせ、メンバーが戻ってきて披露したのは「弱者の為の騒音を」だ。 「ギター上げてください!ロックバンドなんで!歌とか聴こえなくていいんで!!ギター上げてください!」とムツムロがPAのスタッフにむかって叫ぶと、さきほどまでの演奏よりもグッとギターサウンドが大きくなる。この1番のノイジーなギターサウンドとソロに会場から歓声が上がったのはいうまでもない。