「厳格なイスラム国」イランの裏の顔、高級な酒とつまみ、DJが盛り上げ露出度の高い女の子が踊る…
1979年にイスラム革命が起こって以来、イスラム法学者を最高指導者とし、イスラム体制を維持してきたイラン。イスラムでは酒はタブーなので、イランも厳格な禁酒国であり、酒の持ち込みも禁止、外国人も酒は飲めない……はずなのだが、実は「意外と簡単に酒は手に入る」のだという。『イランの地下世界』(角川新書)の筆者が教える「イランで酒を入手する方法」、そしてイランで味わえるおいしいお酒とは?(イラン在住日本人 若宮 總) 【写真】もっとイランの裏の顔を知りたい人は…… ● 実は酒好きが多いイラン人、でもどうやって手に入れる? イスラム共和国であるイランでは、飲酒は違法だ。 しかし、それは1979年のイスラム革命以降の話であって、それ以前の大都市にはバーやキャバレーなどが立ち並ぶ繁華街も普通にあった。そうした文化の名残もあって、テヘランのような大都市では、よほど敬虔なムスリムや、体質的にアルコールを受け付けない人を除くと、ほとんどの人が酒をたしなむ。 といっても、酒を販売または提供してくれるような店は当然ない。酒が欲しかったら、売人に電話をして自宅まで配達してもらう。売人は飲んべえの友達を通じて見つけるのがいちばん確実である。なじみの客からの紹介となれば、向こうもぼったくったり、変な酒を売りつけたりすることはできないからだ。 その気になれば、酒は自分で作ることもできる。ほとんどのイラン人は、田舎に「バーグ」と呼ばれる果樹園を所有しており、そこには大概、ブドウも植えられている。イランの強い日差しをいっぱいに浴びて育ったブドウは、甘くてみずみずしく最高に美味だ。そうとなれば、飲んべえたちが考えることはただ一つ。そう、このブドウでワインを密造するのである。 こうして自家製ワインを飲んでいる人もいれば、それを安く譲ってもらって飲む人もいる。やはり原料がいいせいか、密造ワインにはハズレが少ない。
● 中東や北アフリカではおなじみの蒸留酒「アラク」もおいしい ワイン以外に、干しブドウを原料とする蒸留酒、アラクもある。 ただし、こちらは蒸留酒のため製造には特別な装置が必要で、ワインのように誰でも造れるわけではない。私は一時期、近所に住むアルメニア正教徒の男性からアラクを買っていた。 キリスト教を信仰する彼らには、豚肉食と同様、飲酒のタブーもないので、ムスリムからは酒造りのプロと見なされている。実際、彼の作るアラクは素晴らしく、風味はもちろん、酔いの回り方もさめ方も文句なしだった。 こうした密造酒のほかに、主に陸路で周辺国から密輸されるウオッカやウイスキー、缶ビールなどもある。だが、密輸酒はべらぼうに値が張るので、普段の晩酌には贅沢すぎる。どちらかというとパーティー用、もしくは富裕層向けといった感じだ。 ただし、イラン人が毎週末のように開いている親戚同士のパーティーなどで、酒が出されることはない。自分の親など身内の面前で酔っ払うのは、はしたないことと考えられているからだ。そのあたりには、一応ムスリムらしい文化が残っている。 ● イラン人はいつ酒を飲む? では、いつ飲むかといえば、気心の知れた仲間だけで集まるときだ。 私にも、年の近いタハ君(仮名)や60代のサイードさん(仮名)など、たくさんの飲み友達がいる。私たちが集まれば、おしゃべりや映画鑑賞、ボードゲームなどのかたわらチビチビ飲むのが常で、眠くなったら床を敷いておとなしく寝る。 日本で学生だったころは、毎晩のようにハイペースで酒をあおり、さんざんいらぬことを口走った挙句、明け方まで思いっきり羽目を外し、翌日になって激しい自己嫌悪に襲われていたが、そのころと比べればずいぶん成長したものである。 ところが、今から2年ほど前のある晩、平穏な飲んべえライフを送っていた私を再びあの忌々しい学生時代へと逆戻りさせるかのようなできごとが起きた。