「厳格なイスラム国」イランの裏の顔、高級な酒とつまみ、DJが盛り上げ露出度の高い女の子が踊る…
● 避暑地の別荘で行われるパーティーに出席 その夜、私はイラン北部、カスピ海沿岸の避暑地として知られる、シャッサヴァルという町に向かっていた。同地にある別荘で開催されるパーティーに出席するためだった。 あたりがすっかり暗くなったころ、タクシーはシャッサヴァル郊外の山道で停まった。 「着きましたぜ、お客さん」 運転手にそう告げられ、あたりを見回す。周辺にはいくつか別荘らしき建物が点在してはいるが、明かりがもれている家は一軒もない。 本当にこんなところでパーティーが開かれているのだろうか……不安になっていたその時、暗闇の中から見知らぬ若い男がこちらへ近づいてくるのが見えた。 「ようこそ、ミスター・ワカミヤ。お待ちしておりました。どうぞこちらへ」 男に案内されるがまま、舗装されていない脇道を少し下ると、一軒の家が見えてきた。こぢんまりとした、平屋の建物である。 薄暗い室内に通されると、すぐに見慣れた顔が目に飛び込んでくる。私をこのパーティーに招待してくれたサミラさんだ。 サミラさんはまだ20代だが、2~3年に一度は外車を買い替えるようなお金持ちというだけあって、こうしたパーティーもしょっちゅう開催しているらしかった。 「サトシさん、待ってたわ!疲れたでしょう?さあ、何でも好きなものを飲んでちょうだい」 カウンターに並んだ酒とつまみのラインナップに、私は目がくらみそうになる。密輸品のビールやウオッカ、ウイスキーなどが所狭しと並んでいるではないか。特注と思われるオードブルも、日本の一流ホテルで出てきてもおかしくないほど豪華である。
「じゃあ、とりあえずアラクをもらおうかな」 高級酒がズラリと目の前に並んでいるにもかかわらず、私は飲みつけた安い密造酒の呪縛から逃れることができないようだ。貧乏性は、これだから困る。 ● DJが盛り上げる会場、女の子たちの服装は露出度高め やがて、会場に大音量のダンスミュージックが流れ始め、ほろ酔いの私たちは踊り出す。音楽を奏でるのは、この日のために雇われたプロのDJたちだ。 集まったゲストは男女合わせて総勢15人ほど。そのほとんどが10代後半から30代前半の若者たちだ。女の子たちはミニスカートに、胸元とおへそがのぞくタイトな服を合わせている。もちろん、スカーフなんかしている子は一人もいない。 だんだん、私も心の底から楽しくなってきて、アラクをあおるペースが上がってきた。手当たり次第、目が合った女の子とペアになって踊ってみる。ときどき、彼女たちにおだてられ、輪の中央に進み出て我流のダンスなど披露すると、拍手喝采を浴びて最高に気持ちがいい。 やがて、自分が日本人であることも、ここがイランであることも忘れ、過去の失敗も、将来の不安も、何もかもどうでもいいように思えてきた。
● 翌朝、目が覚めると…… どれくらいの時間が経ったろうか。その晩、私は一睡もせず踊り明かし、朝を迎えた。バルコニーに出ると、外は雲一つない青空で、恨めしいほど強い日差しが盛夏の山々に照りつけている。 頭が痛い……割れるように痛い。見事な二日酔いである。 それが徐々に醒めてくると同時に、今度はものすごい後悔の念が襲ってきた。昨夜の女の子たちは、いい気になって踊っていた私を、今ごろきっとピエロかひょっとこのように思って、あざ笑っていることだろう。 「穴があったら入りたい……」 イランでもこんな気分になったときの責任は、誰も取ってくれないのだった。
若宮 總