「サンダース旋風」が突きつけた格差問題 米国はどう向き合うのか?
4月26日に米東部5州で実施された米大統領選の予備選挙では、共和党のトランプ氏が5州全てで勝利を収め、民主党のクリントン氏も5州のうち4州を制しています。この結果、サンダース氏が民主党の大統領候補として指名を受ける可能性はさらに遠のきましたが、サンダース氏が繰り返し唱えてきた「アメリカ国内の経済格差」は現在も具体的な解決策を見出せないままです。「サンダース旋風」の解説の後編では、アメリカ国内の格差問題が実際にどのようなものなのか、最低賃金の底上げによって格差問題の解消を試みる自治体の取り組みなどを紹介します。 【写真】貧困層が投票に行かない理由 大統領選に垣間見える米国の深刻な経済格差
世帯収入は「リーマン」前の水準に戻らず
2013年4月、マサチューセッツ州ボストン郊外で住宅火災が発生し、逃げ遅れた女子学生が死亡しました。火災にあった住宅はオーナーが学生向けに部屋を貸していたのですが、最大で9人程度が暮らせる広さの家に、19人の学生が住んでいた実態が判明しました。 学生街として知られるボストンですが、生活コストは決して学生にやさしいものではありません。家賃がアメリカの都市では4番目に高いことでも知られており(ニューヨーク、サンフランシスコ、サンノゼがボストンよりも上位にあります)、2016年1月の地元メディアの報道では、アパートの家賃の平均が2000ドルを突破しました。 ハーバード大学やボストン大学の学費は年間で4万ドル(約424万円)以上かかり、学生生活のコストを減らそうと、劣悪な環境でのルームシェアを選ぶ学生は少なくありません。さらに学生ローンで大学や大学院に進学した場合、卒業後も長期にわたる返済が待っています。ボストン郊外で発生した火災は、景気が回復傾向にあるアメリカにたくさんいる「苦学生」の実態を浮き彫りにしました。 クリントン政権下の1990年代に労働長官を務めた、経済学者のロバート・ライシュ氏は26日付のボルティモア・サン紙に寄稿し、景気が回復傾向にあるアメリカで労働者がその恩恵をほとんど受けていない現状に警鐘を鳴らしています。アメリカ国内の一世帯当たりの収入は、2016年の現在でもリーマンショック前の数字以下で、企業の収益が経営トップに流れる構造がより顕著になっていると主張しています。また、2012年の大統領選挙時には政治献金の約40%が、アメリカ社会の0.01%にしか過ぎない超富裕層によって払われていた点も指摘。選挙においても、「持つ者」と「持たざる者」との間に大きな差が存在する点を懸念しています。 首都ワシントンにあるシンクタンク「経済政策研究所」の調査結果が、格差の広がりを裏付けます。1965年のアメリカで大企業のCEOの平均年収は83万2000ドルで、労働者の平均年収は4万ドルでした。その差は約20倍でした。2014年になると、CEOの平均年収は1631万ドルとなりましたが、労働者の平均年収は5万3000ドルほど。約50年で300倍以上の差が生まれたのです。労働者の年収は50年で1.3倍ほど上昇しましたが、CEOの年収は同時期に20倍近くアップしたのです。