「サンダース旋風」が突きつけた格差問題 米国はどう向き合うのか?
アメリカの州で進む「最低賃金の底上げ」の動き
コストが上昇する一方で、アメリカ人労働者の収入がそれほど上がっていない現実 は前述しましたが、最低賃金をめぐる動きや各州の温度差についても触れておきます。現在、連邦政府が定める最低賃金は時給7ドル25セント(約768円)となっています。しかし、米労働省労働統計局による2015年の州別賃金調査では、時給7ドル25セントか、それ以下の賃金で働く労働者の割合は州によって大きく異なり、米西部のオレゴン州ではわずか0.7%だったにもかかわらず、南部のルイジアナ州では6.4%にまで上昇していました。西部のカリフォルニア州が1.2%、ワシントン州も1.1%という水準なのに対し、南部はミシシッピー州で6.2%、アラバマ州で5.6%と、全体的に高いのが特徴です。 最低賃金の底上げに着手した自治体も増えてきました。カリフォルニア州のブラウン知事は今月4日、25人以上の従業員を抱える州内の企業に対し、2022年までに最低賃金を時給15ドルに引き上げることを義務付けた法案に署名。景気が停滞した場合にはその時の知事の権限で最低賃金アップを中止できるという条件付きですが、2023年には従業員数の少ない企業にも法律が適用される予定です。 同様の動きはニューヨーク市でも見られ、2020年までに市内のすべての職種で最低賃金を15ドルに引き上げることが地元議会で承認されました。13州が2022年までに最低賃金を10ドル以上に引き上げる動きを見せているものの、その倍近くとなる24州は2022年以降も最低賃金を7ドル25セントで据え置きする構えで、新たな経済格差が発生する懸念も存在します。 「夏まで選挙戦を戦い続ける」とあらためて宣言したサンダース氏ですが、党の候補者指名に必要とされる代議員の獲得数では、クリントン氏に大きな差を付けられており、ここからの逆転は極めて難しいという見方が大勢です。しかし、サンダース氏が改革を唱えた大学の授業料や最低賃金、医療費といった問題は、格差の広がりが止まらない現代のアメリカ社会を象徴するものであり、多くのアメリカ人有権者から共感を得ました。 これまで、民主党も共和党も、党の指名を受けることができなかった候補の支持者は、最終的に選ばれた候補者を支持する傾向にありました。エスタブリッシュメントの象徴であるクリントン氏が民主党の大統領候補として指名された場合、サンダース氏の支持者が過去の大統領選のようにクリントン氏を支持することはないだろうという報道もあり、格差問題への対応策が見つからないまま、米大統領選は次のステージに進む色合いが濃くなってきました。 (ジャーナリスト・仲野博文)