ドウェイン・ジョンソンとクリス・エヴァンスが活躍 『レッド・ワン』の“クリスマス精神”
『レッド・ワン』のバランスは配信映画としてベスト?
Netflixのアクション映画『レッド・ノーティス』(2021年)が、配信作品として興行的に大きな手応えがあったことを考えれば、当初はAmazonの配信作品にすることを企図していたという本作が、ドウェイン・ジョンソンとクリス・エヴァンスのパワフルなアクションをスポイルさせたくなかったという製作陣の思惑は理解できる。だがそれがなぜ、サンタクロースの夢を描く映画のようなジャンルでなければならなかったという点については、率直に疑問をおぼえるところがある。 アメリカを中心に、クリスマスムービーの定番としてサンタという題材が浸透し、大人も童心に帰ってその趣向を楽しむことを求めているという前提があるにせよ、2億5000万ドルを投じたと推定されながら、興行面において現在物足りないスタートダッシュとなっている本作が、完全に大人向けとしてチューンされているわけではなく、同時に子ども向けとしてはやや暴力的だというバランスを選んだ点については、再考が必要だったのかもしれない。 とはいえ劇場公開に加えて、今後配信の方でも売り上げに寄与させる算段がある「Amazon MGMスタジオ」にとっては、それほど痛手にはならないのかもしれない。映画館と配信サービスでは、観客の動きにかなりの違いがあるからである。むしろ配信映画としては、このバランスこそがベストである可能性もある。 本作と同クラスの大作『レッド・ノーティス』は、率直にいえば、ただ楽しい時間を過ごすために特化した、スター俳優が豪華な共演を果たした意味以外のものが希薄な作品だった。もちろん、批評家の評価も著しく低い。しかし、それが多くの視聴時間を稼ぎ出した屈指のヒット作となったのだから、分からないものだ。 本作『レッド・ワン』も、その意味では『レッド・ノーティス』と内容的に近しいものがあるが、献身的な行為や家族への貢献が含まれた「クリスマス精神」を押さえているところは、比較的好意的に見られる部分となっている。 本作でサンタが暴力的な描写があると思われるゲームソフトを子どもにプレゼントするシーンに象徴されるように、“スレた”子どもたちが増えている世相に、やりがいを見出せなくなったカラムと、自分の息子に無関心なジャックという、クリスマス精神を揺るがす主人公たちが変化していくといったテーマ設定は、筋が通っているといえるだろう。 とはいえ同時に、作家チャールズ・ディケンズが『クリスマス・キャロル』に記したような、貧富の格差と独占欲、富の分配といった要素を踏襲していないところは、本作がクリスマス映画の定番となるには不足だといえる要因かもしれない。現在失業者が増え貧困層も増加しているアメリカだからこそ、そういった意味での「クリスマス精神」が、より輝くはずだったのである。
小野寺系(k.onodera)