かなり多くの朝ドラを見てきたが…『カムカムエヴリバディ』の安子篇が「もっとも好き」で、上白石萌音が「屈指のヒロイン」だと思うワケ
もっとも好きな朝ドラ
ひなたがヒロインとなっても、同じ家にいるので母も常に出てくる。 そして最後には、アメリカから安子もやってきて、三世代の物語になる。 ひなた篇が少し長いのは、三世代物語の部分があるからだ。 三人の母娘リレーの物語だから、テンポがいい。 だいたい2か月でヒロインが入れ替わるからだ。 長さでいうなら、朝ドラ3話で、ふつうのドラマ1本ぶんのボリュームだから、朝ドラ33話で民放の夜のドラマ全話(だいたい全11話)ほどになるのだ。 ちょうどいい感じである。 2024年11月に始まった『カムカムエヴリバディ』再放送は、年内に30話までが終わり、新年に入って、いよいよ安子篇の終盤である。 『カムカムエヴリバディ』でもやはりこの安子篇がとても胸に迫る物語だったとおもう。 安子篇と、るい篇の最初の部分にはどこか静謐さがあり、そこが染みわたってくる。 私はかなり多くの朝ドラを見つづけてきたのだが、もっとも好きな朝ドラは『ひよっこ』で、ただ分割していいのなら、『カムカムエヴリバディ』の安子篇はそれを上回る。 私のなかでの朝ドラヒロインのトップが「あんこの上白石萌音」である。
慈愛に満ち溢れていた安子
上白石萌音の安子は、渡米はすこし残念だが、そこまでの彼女はすばらしかった。 安子は、なんといっても、圧倒的にやさしかった。慈愛に満ち溢れていたようにおもう。 その慈愛は上白石萌音が、自分の内部から見つけてきて広げた部分に見える。 ひとつあげるのなら18話(一度、書いたことがあるが再放送したのでまた書いておく)。 父が土を掘るシーンだ。 岡山空襲のおり、自分が防空壕に入っていろと指示したせいで妻と母(安子の母と祖母)が死んでしまい、それから寝たきりとなった父は、あるとき、突然、病床から抜け出す。安子が探すと、かつて家のあった焼け跡で土を掘り返していた。 雨も降り出す。 父にすがって、お父さん、寝てないかん、帰ろうと言うのだが、父は耳を貸さずに、そのまま土を掘り続ける。 ふつうのドラマなら、娘はお父さんに帰ろうと繰り返すものだが、安子は違った。 あまりに父が懸命に掘り続けるのを見て、安子は黙って、一緒に脇の土を掘り返し出したのだ。 この、何も聞かずに、というところが胸に迫った。 父が何を掘り返しているのかはわからない。ただ、本当に父にとって大事なものを掘っているのだろうとおもい、止めても聞かぬ父を見て、何も聞かず同じことを真似る。 とっても尊いシーンである。