津軽にそびえ立つ赤い山を登頂せよ! 青森・浅虫温泉「鶴亀屋食堂」
艶めく名峰“レッドマウンテン”
使用する鮪はその時季に良いもの。春夏は黄肌や目鉢、インドネシアやニュージーランド、ケープタウン等のミナミマグロ。秋から冬にかけては大間や三厩、龍飛に深浦、小泊といった地元の津軽海峡産から沖縄、銚子等、日本全国から天然ものを厳選し、一本買いで仕入れ、店で熟成させる。 「仕入れる時に状態を見てから。本鮪は活きが良すぎたら酸味が強すぎて酸っぱいのさ。大間の30kg台なら丸で4日寝かせて、柵で2日。それくらい経つと旨味に変わる」。 その大間産の本マグロ丼を注文した。まず目を奪われたのは赤身とトロの艶やかなグラデーション。そして痛快な切り身の大きさ。中腹から山頂にかけて重ねられた大トロの“はらんぼ”には霜降り和牛のような脂が繊細に刻まれ、ひと口食べると、何も付けなくてもねっとり濃厚な甘みが舌に広がる。裾野に広がる赤身は程良い酸味でさっぱり。その味わいのコントラストを堪能しながら、食べれども食べれども白米にはたどり着かないが、卓上の淡口醤油と大間昆布醤油で飽きることはない。
煌めくエッジと官能的な旨味。“ひがしもの”の凄味
名峰登山さながら一心不乱にかきこんでいると、佐藤氏が教えてくれた。 「この時期ならもっと旨い“ひがしもの”があるよ」。 それは宮城県塩竈港で水揚げされる、知る人ぞ知る日本一の目鉢鮪だという。 宮城県の塩釜港は世界三大漁場のひとつである三陸沖漁場を抱え、古くより国内随一の鮪の水揚げ港として栄えてきた漁港。その一帯の千島海流と日本海流がぶつかり合う三陸東沖漁場で、鮪延縄船によって漁獲される目鉢鮪が“ひがしもの”だ。秋刀魚や鰯等の豊富な餌を捕食し、秋口から冬場にかけて塩竈市魚市場で水揚げされ、鮮度や色艶、脂ののり、旨味において良質であり、冷凍保存をほどこさないものだけが認定されるブランドだという。 佐藤氏曰く、地元の宮城人も知らない人が多く、青森県で食べられるのは『鶴亀屋食堂』だけとのことだが、仕入れるきっかけは「ステッカーが欲しかったから」というから面白い。実際使ってみると、津軽海峡産の本鮪とはまた違った旨味があり、9月下旬から12月いっぱいまではまぐろ丼のメインとして提供している。 その“ひがしもの”の赤身がうず高く積み上げられた「レッドマウンテン」が運ばれてきた。エッジの立った切り身は瑞々しく、鮮やかな色は眺めているだけで食欲を刺激する。鼻に抜ける上品な香りと官能的なまでに深い旨味は、到底、目鉢鮪とは思えない。いま時季の旬は本鮪より値が張り、1本で大間が2本買えるというのも納得のクオリティだ。