人類の起源へのオマージュ、森万里子の新作がヴェネチアで公開中。
2024年6月、ビエンナーレが開催中のヴェネチアで、現代美術家の森万里子の新作《Peace Crystal》が公開された。これは6つの大陸にサイトスペシフィックな作品を恒久展示するという壮大な計画のひとつだ。今回のヴェネチアでの活動について森自身に語ってもらった。 【フォトギャラリーを見る】 《Peace Crystal》は、森万里子が2007年から始めたアート・プロジェクト〈Primal Rhythm〉から数えて3番目の作品となる。これまでに2011年の宮古島《Sun Pillar》、2016年のブラジル《Ring:One with Nature》が完成している。 「出発点は宮古島でした。日本には、自然崇拝という祈りの形が新石器時代からあるようですが、宮古島では13世紀から変わらず継承されてきた祈りの文化が『生きている』ことを肌で感じることができました。それを作品に昇華させ、アートを通じて「祈りの伝統」を未来へつなげたいと思いました。ここを出発点とし、地球上の美しい、それぞれの自然を讃える作品を制作し、世界をひとつにつなげられないかと考えたのです」。(森万里子)
《Primal Rhythm》の連作は恒久展示される場所と深い関連を持っている。この《Peace Crystal》はヴェネチアで公開された後、世界遺産として知られるエチオピアのラリベラの岩窟教会群の近くにある洞窟に設置される予定だ。 「エチオピアは人類発祥の地で、そこで育まれた人類が世界へと広がりました。私は人間の精神性の発達に興味があり、霊長類からヒトへの進化の過程を研究する古人類学についてリサーチを重ねてきました。そこでわかったのは、二足歩行による直立姿勢の獲得が、人間の精神性の発達の鍵であったということです。そして作品の高さは現代人の平均身長とし、人類を讃えたいという思いを込めています」
過去の作品と同様に今回の《Peace Crystal》でも自然光が作品を構成する要素になっている。 「光を意識して制作するようになったのは、ずいぶん前に、まるで天国を象徴するかのような光に包まれ、その光と一体感を味合う霊的な体験に基づいています。私たちは生まれる時にすべてを忘れてしまうようですが、生きとし生きるものは、私がその時に見た世界から来たのだと感じています。この光の体験は私たちがみんなつながっていて、満ち足りた世界に存在していたことを思い出させてくれました。私の創作活動は、ある意味、あの時に体験した輝く光の世界を、作品を通して再現しようとする試みなのです」