存在に関わるリスクは消え去った、だが「無用」になるリスクがある
暗号資産業界は、資産クラスが成熟するなかで、無用のものになるという次の大きなリスクに直面しているとマレックス・ソリューションズのイラン・ソロット氏は述べる。 ● 暗号資産(仮想通貨)の初期には、存在に関わるリスクが最大の懸念事項だった。私たちは朝、目覚めると、どこかの政府が暗号資産を禁止するのではないか、あるいはテザー(USDT)のような主要なステーブルコインが崩壊するのではないか、あるいは大規模なハッキングによってチェーン全体が消滅するのではないかと不安になった。 しかし、暗号資産の普及が進み、伝統的な金融システムとの融合が進むにつれ、こうした存在に関わる不安はほぼ消え去った。特に米国でETF(上場投資信託)が承認されたことで、全面的な崩壊の可能性はきわめて遠のいたように思われる。 暗号資産が消え去ることはない。 しかし、資産クラスとして成熟していく過程で、私たちは次の大きなリスクに直面している。それは「無用」になることだ。このリスクは、現在の暗号資産市場にとって最も差し迫った懸念事項かもしれない。 暗号資産を新興国市場(emerging markets)の比べてみよう。2000年代はじめ、ブラジル、トルコ、インド、中国、ポーランドなどの国々の潜在的可能性に大きな期待が寄せられていた。新興国市場は次の大きな成長分野と考えられていた。 ゴールドマン・サックスのジム・オニール(Jim O’Neill)氏が作った「BRICs」という単語を覚えているだろうか? シニア・グローバル・ポートフォリオ・マネージャーとのミーティングでは、インドネシアのローカル市場やメキシコの政治、あるいはトルコ中央銀行の金融政策について議論することもできた。新興国市場には大きな可能性と成長性、そして非効率性が存在した。 だが、時が経つにつれて、新興国市場への関心は薄れていった。今では、このセクターはより小規模で専門性の高いチームに任されることが多く、マクロ・ファンドの資産アロケーションに占める割合はかなり小さくなっている。 ポートフォリオ・マネージャーは今、半導体、AI、米欧金利、コモディティ・サイクルなどの、より大きな案件に時間を割いている。なぜだろうか? 一言で言えば、新興国市場はリターンを生み出さなかったからだ。 同様に、暗号資産の分野には、ビットコインETFへの資金流入、イーサリアム・スケーリングソリューションの普及、ソラナによる高速でスケーラブルなネットワークの提供など、引き続き多くの動きがあるが、いずれも持続的な成長にはつながらないというリスクが存在する。新興国市場が輝かしい瞬間を迎えたものの、長期的な関心を獲得できなかったように、暗号資産も同様の課題に直面している。 グッドニュースは、暗号資産業界の成功は規制などの外的要因よりも、業界自体の取り組みに依存していることだ。さらに、暗号資産の未来を後押しする潜在的な要因は数多く存在する。例えば、以下のようなものだ。 暗号資産が重要なものであり続けるには、1つの画期的な「キラーアプリ」ではなく、むしろ、DeFi(分散型金融)、ステーブルコイン、イノベーティブなブロックチェーン・アプリケーションの連続した着実な成功が不可欠。現在のポリマーケット(Polymarket)程度の認知度を獲得した5~10程度のプロトコルが、それを実現するかもしれない。 未来はもちろん誰にもわからない。だが、無用のものとならないための取り組みは、確実に私たちの手の中にある。 |翻訳・編集:CoinDesk JAPAN編集部|画像:Shutterstock|原文:From Existential to Irrelevance Risk
CoinDesk Japan 編集部