『墓泥棒と失われた女神』アリーチェ・ロルヴァケル監督 マジックはリアリティのなかにある【Director’s Interview Vol.422】
墓泥棒と資本主義について
Q:墓泥棒たちには罪悪感がありませんが、彼らが掘り出したお宝を売り捌く美術商たちとその顧客たちもまた、同じぐらい罪深いことを本作は描いていますね。 ロルヴァケル:劇中に登場する吟遊詩人の言葉通り、「トンバローリは大海の一滴」にすぎないのです。20世紀のヨーロッパのアート市場は、考古学的価値のある財宝が不正取引されていました。墓掘り人たちは、自分たちの土地で過去を掘り起こすことで新しいものを得ようとし、また資本主義社会の体制に反抗して自由に暮らしているような気分でいたかもしれませんが、結局彼らも巨大なアート市場の違法なビジネスの歯車に過ぎなかった。そういうことも、この映画の背景として重要でした。 監督/脚本:アリーチェ・ロルヴァケル 1981年12月29日、イタリア・トスカーナ州フィエーゾレ出身。ドイツ人の父とイタリア人の母を持つ。トリノとポルトガル・リスボンで学び、劇場での作曲や編集の仕事を経た後、映画に惹かれてドキュメンタリーの編集者として働き始める。2011年、初の長編劇映画で南イタリアのレッジョ・カラブリアを舞台に思春期の少女の葛藤と成長を描いた『天空のからだ』が第64回カンヌ国際映画祭監督週間部門に出品され、各地の映画祭で上映された。自身の体験をもとに養蜂家の家族を描いた『夏をゆく人々』(15)は長編2作目にして第67回カンヌ国際映画祭グランプリを受賞し、現代の聖人ラザロを実際の詐欺事件を通して描いた長編3作目『幸福なラザロ』(19)は第71回カンヌ国際映画祭脚本賞を受賞。北米公開時には、マーティン・スコセッシがその才能を絶賛し、映画完成後にプロデューサーに名乗りを上げた。2015年、ファッションブランド・ミュウミュウの企画で、女性監督が21世紀の女性らしさを鋭い視点で称えるショートフィルムシリーズ「女性たちの物語」の第9弾として「De Djess」を発表。2016年、イタリアのレッジョ・エミリア市立劇場でオペラ「椿姫」を演出。2020年、イタリア国営放送RAIとHBO合作のTV シリーズ「マイ・ブリリアント・フレンド」シーズン2で共同監督を務める。2021年、ピエトロ・マルチェッロ、フランチェスコ・ムンズィと共同監督でティーンエイジャーの目を通して現在のイタリアのポートレイトを掘り下げたドキュメンタリー「Futura」を発表し、第74回カンヌ国際映画祭監督週間部門に出品された。2022年、アルフォンソ・キュアロン監督がプロデューサーとして参加したDisney+オリジナルの短編映画『無垢の瞳』が第95回アカデミー賞®短編映画賞にノミネートされた。世界中の映画人がその才能に惚れ込み、いまやイタリア映画界を代表する監督の一人である。 取材・文:佐藤久理子 パリ在住、ジャーナリスト、批評家。国際映画祭のリポート、映画人のインタビューをメディアに執筆。著書に『映画で歩くパリ』。フランス映画祭の作品選定アドバイザーを務める。 『墓泥棒と失われた女神』 7月19日(金)Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開 配給:ビターズ・エンド © 2023 tempesta srl, Ad Vitam Production, Amka Films Productions, Arte France Cinéma
佐藤久理子
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