【毎日書評】身近な疑問から分析力を身につける方法~客のいない古びた駅前の店がつぶれないわけは?
なぜ駅前の古びた靴屋さんはお客さんが来ないのに営業を続けられるのか
古びた靴屋さんとか、昔ながらの衣料を扱う洋服屋さん、宝石屋さんなど、ほとんどお客さんが来ていないにもかかわらず、駅前の一等地で営業を続けている小売店を見かけることがあります。 持ち家で従業員は家族だけだとすれば、運営コストはそれほどかかっていないでしょう。しかし、そうはいっても店主一家の生活を支えるほどの収入があるとも思えません。でも、ほとんどお客さんが来ないというのに、なぜ営業を続けられるのでしょうか? 一つは、収入の柱は別にある可能性が高いということです。現在のようにチェーン展開する専門店やショッピングセンターが少なかった時代は、個人が運営する小売店で買い物をするのが一般的でした。当時稼いだお金をうまく運用して本業以外の資産運用が収入の柱になっていることがあります。 埃を被った在庫の奥には株価チャートが打ち出された複数のモニターが並んでいるということもありえます。また駅前の一等地という資産価値が高い土地を担保に借入をしてアパート経営をしているということもあるでしょう。(21~22ページより) 著者の家の近所にある昔ながらの米屋さんも、現在の米関連収入は精米所運営くらいのものなのだそう。ところがかつての倉庫跡地に大きなアパートを構え、毎日優雅に暮らしているのだといいます。 そんなところからもわかるとおり、お客さんがほとんど来なくても、他のルートで十分な生活費を確保していれば、本業での収入がなくてもやっていけるケースが多いわけです。 では、かつての蓄積や事業用簿土地を活用した資産形成が十分にできなかった場合はどうなってしまうのでしょうか? そういう方は多くの場合、駅前の土地を売却し、別な仕事をしているケースが多いようです。つまり、駅前の一等地でずっと儲からない小売店を営んでいる方は、他の収入があると思って間違いないということ。(21ページより)
お店を続けているのは相続税対策?
もう一つ、儲からなくてもお店を続ける理由があります。それは相続税対策です。 一定の要件を満たす「店舗併用住宅」の敷地については「小規模宅地等の特例」という制度が活用でき、土地の相続において最大80%の節税が可能です。 平成27年からは、遺産の基礎控除額が引き下げられ、実質的に相続税の増税が行われました。そのため富裕層はいかに相続税を減らすかに四苦八苦しています。資産形成に成功した店主の場合、資産総額はそれなりに増えており、何といっても一等地にあるお店の土地の評価額が数十年の間に高騰しているため、多額の相続税を支払う必要があります。(22~23ページより) 国税庁の資料によれば、課税価格の合計が2億円、配偶者と子どもが2人の場合、3人合計で2700万円の相続税が発生するのだそうです。 しかしその遺産が「店舗併用住宅」であったとすると、評価額は2億円×0.2=4000万円となり、基礎控除の範囲に収まることになります。相続税申告書を提出する必要はあるものの、本来2700万円発生するはずの相続税は発生しないことになるわけです。 このような相続税の観点から推測してみれば、お客さんがまったく来なくても営業をする意味があるということ。 また現在では、昔から営業を続けている古びた小売店だけでなく、最初から相続税の節税を意識した建設やリノベーションも増えているようです。端的にいえば富裕層は、上がっていく税率に対して、さまざまな工夫をしながら節税をしているのです。 数字で物事を考える習慣が身につき、数字に強くなり、その結果、人生がより豊かなものになればいい。そんな思いをもとに、著者は本書を執筆したのだそうです。たしかに数字への苦手意識をクリアにできれば、いろいろな可能性が広がっていくかもしれません。一度、手にとってみてはいかがでしょうか? >>Kindle unlimited、99円で2カ月読み放題キャンペーン中! 「毎日書評」をもっと読む>> 「毎日書評」をVoicyで聞く>> Source: ダイヤモンド社
印南敦史