バイオリニストの大谷康子、1月に記念公演…デビュー50周年の調べ「音楽の力で世の中を変える」
多彩な活動で知られるバイオリニストの大谷康子が来年1月10日、東京・赤坂のサントリーホールでデビュー50周年記念の特別コンサートを開く。「世の中を変えられるのは音楽だけ」と信じ、歩んできた道のりを振り返り、いま何を問いかけるのか。(松本良一)
東京交響楽団のコンサートマスターを長年務め、現在はソロ活動と並行して弦楽四重奏団「クヮトロ・ピアチェーリ」のメンバー、「おんがく交差点」(BSテレ東)の司会など縦横無尽に活躍する。衰えを知らない原動力は、人の心に訴える音楽の力を信じることだ。
「若い頃からバイオリンでできることは何でもやってきた」と言い切る。演奏会だけでなく病院や学校でもたびたび演奏し、時に話を交えながらクラシックの神髄を伝えてきた。「普通の子どもたちに思いを伝えるには、よくある音楽鑑賞教室とは違うやり方がいい。まず楽しくないと」
しかし、ただ「楽しいことが好きな人」ではない。「時流に乗って人気者になっても、すぐに飽きられる。時間をかけて精進する気構えが音楽家から失われればクラシック自体が衰退してしまう」と危機感を募らせる。ではどうするか。多くの教え子や仲間と共に舞台に立つ50周年記念コンサートが、一つの答えだ。
「民族・言語・思想の壁を超えて未来に向かう音楽会」と銘打ったプログラムは、お祝い一色ではない。前半にはショスタコービッチ「弦楽四重奏曲第8番」とリヒャルト・シュトラウスの「メタモルフォーゼン」を置く。いずれも第2次世界大戦を反映した悲痛な音楽。「世界で戦争が続いている今、その惨禍に思いを巡らしたい」と話す。
後半は未来に希望を託し、作曲家・萩森(はぎのもり)英明の新作「バイオリン協奏曲『未来への讃歌(さんか)』」を初演する。バイオリンとバス・クラリネットに加えてバンドネオン、アフリカの太鼓「ンゴマ」、リュートに似た中央アジアの「ドゥタール」といった世界の民族楽器のソロとオーケストラが、音楽を通した和解を世界に呼びかける。
「音楽にどんな意味があるのか、これから何ができるのか。音楽生活半世紀を機にあらためて問いかけたい」。午後6時半開演。指揮は山田和樹、出演は大谷康子50周年記念祝祭管弦楽団ほか。(電)0570・00・1212。