家族5人で初の外出、母感激 「荷物多くとにかく大変」医療的ケア児のお出かけ、阻む障壁
▽看護師や介護タクシーで費用は高額に、公的支援は不十分
医療的ケア児の外出では費用負担も大きい。フローレンスによると、豊田さんの外出には、看護師2人の人件費に約13万円、介護タクシーに約4万円がかかった。今回は「チューリッヒ・インシュアランス・カンパニー・リミテッド」の寄付金で賄われたが、支援がなければ家族に経済的な負担ものしかかる。 障害者らの外出を支える公的サービスには、ヘルパーが同行する「移動支援」がある。ただ、1人で外出できない障害者のサポートが目的の制度で、家族の負担軽減が主目的ではないため、家族で外出する際にケアを任せるような使い方は基本的には想定されていない。 こうした課題を認識し、動いたのが金沢市だ。金沢市は2020年に医療的ケア児に特化した移動支援を始めた。外出する際、1カ月に原則30時間まで最大1万8600円の自己負担で看護師を派遣する。親の負担軽減のため、家族で外出する際にも使えるという。 担当者は「通常の移動支援はヘルパー派遣。看護師の対応ではなく、医療的ケア児の外出を想定したものではなかった」と説明する。制度開始時点で中核市初の取り組みだったといい、各地に広がっているとは言い難いのが現状だ。 豊田さんの支援を担当するフローレンスの大津留美咲さん(32)は「一般家庭で気軽にできることが、ケア児のいる家庭ではできない現実がある。国による支援制度や、サポートする事業所を後押しする仕組みが必要だ」と強調する。
▽「医療的ケアが必要な人は外出しない」という前提、親にのしかかる負担
社会福祉法人「むそう」(愛知県半田市)の代表で、医療的ケア児の支援に当たる戸枝陽基さん(54)は、3つの課題を指摘した。 ①移動手段を確保する難しさ ②看護師など支援する専門職の人手不足 ③公的な支援制度が未整備 「乱暴な言い方だが、『医療的ケアが必要な人は外出しない』という前提で国の制度ができている」と解説する。 戸枝さんが長年訴えているのは、医療的ケア児を取り巻く特殊な事情だ。介護福祉士や保育士、教員らが対応できるケアは、たんの吸引やチューブで栄養を送るなど一部に限られている。在宅酸素の取り扱いや床ずれの処置といった医療行為は、医師、看護師にしか認められていない。一方、家族がこれらを行うことは例外的に認められている。医師や看護師にしかできないのに、人手はない。結果的に、多くの負担が親にのしかかる。 戸枝さんは「医療的ケア児の数は増え、今後は団塊の世代のみとりも始まる。看護師の数が追い付かないのは明白だ。介護職でもできる医療行為は認めていくべきだ。『介護職にはできないだろ』と言われることもあるが、ではなぜ親に押しつけているのか。このままでは、外出の支援に人材を回すことはままならない」と強調した。 医療的ケア児も大人になる。親はいつまでも介助できない。「誰かが親に代わって24時間の世話をしなければならない。今のままで誰がどうやってやるのか。医療的ケアができる人材の位置づけや養成について議論を始めるべきだ」と訴えた。 ※この記事は、共同通信とYahoo!ニュースによる共同連携企画です