家族5人で初の外出、母感激 「荷物多くとにかく大変」医療的ケア児のお出かけ、阻む障壁
▽民間団体の支援を受けて実現、初めての記念写真も
「一緒にお出かけしませんか」。豊田さんの自宅を訪問したフローレンスの看護師佐藤仁美さん(29)からそんな提案があったのは、2022年10月ごろのことだった。フローレンスの看護師で、佐藤さんと共に琉叶君のケアに当たる長井瑠維さん(30)は「家族全員で撮った写真がなく、みんなでお出かけしたいんじゃないかな、という思いはあった」と言う。 フローレンスのスタッフが事前に予定を細かく決め、持ち物などを記した冊子も準備した。八景島シーパラダイスに下見もし、バッテリーを充電できるかどうかや、レストラン内で医療的ケアをしても良いかどうかといった確認も済ませた。 看護師は佐藤さんと長井さんが同行した。佐藤さんが車いすを押すときは、長井さんが体温や心拍数を確認。琉叶君はまばたきができないため、乾燥しないように目にワセリンを塗る。他にも人工呼吸器が外れていないかなど、気をつけるべき点は多い。午前中だけで医療機器を動かすバッテリーの残量が半分ほどになり、お昼休憩中に充電した。長井さんは「私たちは分担して準備ができたけど、これをご家族が全部やると大変だと思う」と振り返った。 初めて家族5人で外出し、記念写真を撮った豊田さん。「まだまだ医療的ケア児は知られていない。『周囲にどう見られるだろう』という思いで、外に出る勇気が出ないこともある。琉叶みたいな子が自然に受け入れられる環境になってほしい」
▽念願のディズニー、バリアフリーではなかった「夢のまた夢の国」
果敢に外出にチャレンジし、障壁を感じた家族もいる。東京都江戸川区の山本阿伎さん(40)は、夫と2人の子どもと4人で暮らす。長男の瑛太君(5)が、腹部に開けた穴から栄養を送る「胃ろう」や人工呼吸器が必要な医療的ケア児だ。昨年春には家族で初めて伊豆旅行へ出かけた。「ミニバンの車内に隙間なく医療物品があるくらい荷物だらけだった」 外出先のトイレに大人も横になれる「ユニバーサルシート」がないことが多く、不安の種になっている。赤ちゃんのおむつ交換シートがあっても、瑛太君の大きさでは使えない。「多目的トイレを作るならユニバーサルシートは設置してほしい」と話した。 東京ディズニーランドを訪れた際は、思わぬ壁に阻まれた。山本さんにとって、ディズニーランドは最初「夢のまた夢の国」だった。初めて訪れたのは4年前。入念な準備に加え、友人に同行してもらい、瑛太君と家族での訪問を実現した。その感動があったからこそ、今 年7月には山本さん家族が支える側として、医療的ケア児の子どもと初めて訪れる家族に同行した。そのときのことだ。パレードの車いすエリアに瑛太君を連れて行くと「介助者は1人、車いすの後ろに座ってください」と言われた。「下の子は『みんな一緒じゃなきゃ嫌だ』と泣いちゃって。真後ろだと息子の顔も見えない。ケアもできない」。事情を説明したが、家族みんなで一緒に見ることはかなわなかった。 「場所を設けるだけでバリアフリーではないんだと私も初めて気付きました。障害があるから仕方ないという価値観が子どもに植え付けられるのは嫌で」。SNSで改善を求める声を101人分集め、ディズニーランド側に提出した。その後、ディズニー側からは改善へ向けて協議すると連絡があったという。