北朝鮮のスパイか アルカイダのテロリストか あの公安事件はどうなった?
「公安事件」報道
当初は集中豪雨のような大報道が行われながら、「起訴→裁判開始→判決」と進むにつれ、報道量が減っていく──。これは日本の事件報道の大きな特徴です。とりわけ、公安事件の場合、罪状そのものは比較的軽微なものが多いため、この傾向は一層、強くなります。裁判に至らないケースも多いため、「容疑」段階で報道されたことが事実だったかどうかを確かめることは相当に難しいと言わざるを得ません。 実際、先に紹介した「北朝鮮・医薬品輸出事件」では、薬事法違反容疑で書類送検された75歳の女性が起訴猶予の決定後、報道陣に対し、「私は甲状腺がんの手術を受けるなど体が弱く、(北朝鮮を)訪問中の体調管理と、肝炎になった元医師の次男にあげようと思った。その3年前にも持参したが、薬事法改正(05年4月)で持ち出しができなくなったことを知らなかった」「自分で使ったり、(北朝鮮に)帰国した息子に持っていくために医者から好意で譲り受けた。スパイであるかのようにでっち上げた捜査や報道の影響で、つらい思いをした」などと語っています。大々的な報道との落差を感じさせる出来事でした。 似たような事例では、国際テロ組織「アルカイダ」の関係者だと疑われたバングラデシュ人のヒムさんの例があります。ヒムさんは日本に移り住み、プリペイドカードの販売業などを手がけていた2004年、「就労ビザを持たない者を雇用した」などとして出入国管理法違反容疑で逮捕され、40日間余り、警察に勾留されました。 全国紙やテレビは当時、「アルカイダ関係者」「テロ拠点のために資金提供」などと大々的に報じました。最初に捜査員が自宅に来た際、それを取り囲むように大勢の報道陣が既にやってきていたことに何よりも驚いた、とヒムさんは後に話しています。 結局、ヒムさんはアルカイダとは何の関係もありませんでした。同法違反で罰金30万円を支払ったものの、アルカイダと無関係だったことは検察当局が認めています。その一方で、「アルカイダ関係者」という大々的な報道の結果、ヒムさんは事業ができなくなり、2億円以上の損失を出してしまったそうです。 その後の講演などでヒムさんは「新聞は私を商売に使った」「誤報の責任を取ってほしい」としてメディア各社を訴え、勝訴もしました。