北朝鮮のスパイか アルカイダのテロリストか あの公安事件はどうなった?
「北朝鮮側との接触を図る女スパイだった」「中国の諜報部員が民間人に身分を偽装していた」──。時々、こんな大ニュースが報道されます。しかし、それら“スパイ”がどうなったかの「続報」は、それほど大きなニュースになりません。国の安全を脅かすとされるテロなどの「公安事件」に関する報道をどう読めばいいのでしょうか。
最初に報道事例をいくつか紹介しましょう。 今年3月21日、産経新聞(大阪本社版)1面に「逮捕の中国人、スパイ活動か」「機械メーカーと接触」という大きな記事が載りました。社会面でも「中国スパイ 謎多く」「警察当局 『実態を暴く』」という長い記事が展開されています。両面とも1000字を超す長い記事でした。 記事によると、長男の外国人登録を虚偽申請したとの理由で大阪府警に逮捕された貿易会社の代表取締役の男性が、実は中国人民解放軍総参謀部と定期的に連絡を取っていた、のだそうです。しかも男は「軍事転用が可能な技術を持つ機械工業メーカー」などと接触していたとされています。 では、事件はその後、どうなったのでしょうか。 この案件を報道したのは産経新聞だけだったようですが、大阪地検は4月になって男を不起訴にしました。不起訴を報じる記事は300字足らずでした。 もう一つの報道事例として、2006年の「北朝鮮・医薬品輸出事件」を紹介しましょう。 各紙の報道によれば、当時75歳の北朝鮮籍女性は、処方箋なしで点滴薬「強力モリアミン」などを新潟港から北朝鮮に持ち出そうとしたとして、新潟税関に摘発されました。その後、自宅や女性に薬を売った貿易会社などが薬事法違反容疑で警察当局の家宅捜索を受け、女性も同じ容疑で書類送検されます。 朝日・毎日・読売などの全国紙はこの事件を大きく報道しました。これに関連し、当時は「朝鮮総連ぐるみの違法輸出」「点滴薬は生物兵器に転用可能」「家宅捜索先は北朝鮮のミサイル開発に関与していた」といった報道があふれました。 しかし、家宅捜索から約10か月後の2007年7月、東京地検は女性を起訴猶予処分としました。大々的な報道とは違い、点滴薬の持ち出しに組織的な背景は認められず、女性は自分の肉親のために薬を持ち出そうとしただけ、というのが起訴猶予の理由でした。 事件の背後関係に組織的な関与があったのか、なかったのか、というポイントはあいまいなまま事件は事実上、幕引きになりました。しかも、起訴猶予の報道はどのメディアも小さく、例えば、共同通信は400字ほど。家宅捜索当時は、社会面を埋め尽くすような大報道が続きましたが、ほとんどのマスコミは起訴猶予について、社会面の片隅で小さく報じるか、あるいは報道しないままでした。