涙腺決壊 心揺さぶる「歌の力」から紅白歌合戦の本当の存在意義を考える
放送前から、自分の周囲ではちょっとした異変が起きていた。いつもはNHK紅白歌合戦に関心を示さない仕事仲間の2人が「今年は玉置浩二が出るから楽しみ」といい、理由を聞けば「あの人の歌は感動するから」とほぼ同じようなことを話していたのだ。 【写真】【紅白】玉置浩二、39年ぶり「悲しみにさよなら」を歌唱 こちらは仕事を含んでいるので、自宅にいても好き嫌い関係なく、毎年頭から最後まで見ている。年を重ねると歌の感じ方も変わってくる。南こうせつの「神田川」、イルカの「なごり雪」が始まる後10時20分辺りから、涙腺が怪しくなり、決壊しかけた。眠っていたはずの母が、この2人のメロディーでむくっと起き上がったかと思うと、「もう少しボリューム大きくしてくれる?」。これも歌の力。照れくさいので気づかれないよう、あわててティッシュで鼻をかむふりをして涙をふいた。 そして西田敏行さんを追悼する「もしもピアノが弾けたなら」へ。出演メンバーの竹下景子の着物姿に目がとまる。「偲」の文字が織られた帯に、帯締めは紅白。こんなところにも細やかな心くばりがうかがえた。この西田さんのとき、審査員の内村光良が大泣きしたことが話題になっているが、この名曲中、お茶の間でも似たことが起きていたと思うのだ。 その一方で、放送時間の長さが気になった人も少なくないのではないか。今回は後7時20分から約4時間半。長い。平成になるまでは夜9時放送開始だったと記憶するが、その時間帯が自分の中にいまも染みついている。年内に片付けることを終え、年越しそばも食べてゆっくり、のんびり、しんみり見るのが、子どものころの大みそかのルーチンだった。紅白は新年を迎える前、個々に気持ちを整えることのできる時間にもなっていた。 「あなたへの歌」が第75回の紅白のテーマになっていたけれど、「人を思う」ことは何も今回に限ったことではない。心を揺さぶり、突き動かし、浄化してくれる歌が1曲でもあれば、見る者は、その歌を心待ちにし、満たされる。今回、紅白の本当の存在意義に改めて気づかせてくれた、とも思うのです。(記者コラム)
報知新聞社