熊本に続々進出、台湾半導体 地元企業、TSMC供給網入りが鍵
半導体受託生産の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)の熊本第1工場からの製品出荷が12月に迫る中、台湾の関連企業の熊本県進出が相次いでいる。同社のサプライチェーン(供給網)整備の一環で、日本企業との関係強化も狙う。一方、地元の九州企業はTSMCとの取引に食い込めるかどうかが鍵となる。(共同通信=石原聡美) 「TSMCに納める装置の立ち上げを契機に日本でのビジネスチャンスを見いだしたい」。半導体製造装置の保守点検を手がける漢民科技(かんみんかぎ)の日本法人の田口雄三(たぐち・ゆうぞう)社長は話す。「日本の装置、部品メーカーは世界でもトップクラス。魅力がある」と、技術力向上と取引先開拓に余念がない。 同社は4月、TSMCの工場がある菊陽町に隣接する大津町で、社員寮も兼ねた4階建ての事務所を開所。技術者10~15人が駐在し、第1工場の製造装置の正常稼働を担う。事務所には台湾で人気のマージャン専用スペースも備えた。
台湾の半導体商社、崇越科技(すうえつかぎ)の日本法人は2022年、子会社を東京に設けた。2023年夏には熊本市に営業所を置き、従業員も増やしている。森崎貞和(もりさき・さだかず)所長は「熊本での採用は厳しい」と述べ、専門人員の確保が事業拡大に向けた課題と説明する。 日本貿易振興機構(ジェトロ)が熊本市に2023年9月新設した海外の半導体関連企業の支援デスクには、これまでに台湾企業約30社から土地や雇用に関する相談があった。大手コンサルティング会社や銀行の誘致も活発で、ジェトロ熊本の水野桂輔(みずの・けいすけ)所長は「進出企業の奪い合いだ」と話す。 半導体業界に長年携わる関係者は1990年代を振り返り「韓国や中国に自社技術を持ち出された記憶が残る経営者もいる。取引に慎重な国内企業もあるのではないか」と指摘する。 日本企業にはTSMCの供給網の参入障壁は高い。帝国データバンクがまとめた熊本第1工場の運営子会社を含めたTSMCとの国内取引企業は2024年2月時点で74社。約2年前の69社から大きく増えていない。
TSMCとの取引を目指し、九州と台湾の半導体関連企業が合弁会社設立や業務提携、共同研究といった協業を模索する動きもある。九州企業は約70社が意欲を示す。 肥後銀行(熊本市)を傘下に持つ九州フィナンシャルグループは2024年度からの3年間で、50社のTSMC供給網入り支援を目標に掲げ、300社以上をリストアップ。笠原慶久(かさはら・よしひさ)社長は「供給網が九州で充実していくことにより地域経済が良くなっていく」と話している。