【貿易手続きとインフラ構造改革】 (132) NX総合研究所リサーチフェロー・田阪幹雄、港湾運営の近代化:読者の意見(2)、2024年問題 〝ドロップ&プル〟活用を
平田義章氏の議論の中心が明治時代以来輸入のみならず輸出にも適用されてきた保税管理制度にあることは重々承知した上で、もう一度だけ横道にそれることをお許しいただきたい。 本連載第130回(4月11日付)において平田氏は、「わが国では海上コンテナの荷主施設などでの積み降ろしに際し、空コンテナを指定場所で切り離し実入りコンテナを引き取る〝ドロップ&プル〟方式ではなく、ドライバーがコンテナの貨物の積み降ろしに立ち会うのが通例である」と指摘しておられる。 筆者は、〝官側〟が存続させてきた旧態依然たる保税管理制度が日本の貿易手続きの近代化を阻害してきたことと同程度に、荷主や物流企業を中心とする〝民側〟がこの〝ドロップ&プル〟方式を十分に取り込んでこなかったことが日本の物流の近代化の阻害要因となり、ひいては「物流の2024年問題」の主要因の一つとなっていると考えている。 ■手待ち・手荷役ゼロの仕組み オンシャーシのコンテナを含むトレーラー輸送が大勢を占める北米のトラック輸送においては、ドライバーは手待ちも荷役もせずに、荷主の戸前あるいは庭先にトレーラーを台切り(トレーラーヘッドとシャーシの切り離し)して置いて行く。以降の荷役作業は全て荷主側の責任で行われる。ヤードに台切りされたトレーラーのドックへの移動についても、荷主側の責任において、ヤードミュールと呼ばれる簡易トラクターヘッドで行われることが多い。 トラック運送業者のドライバーは、実入りトレーラーが空になる頃に次の実入りトレーラーを運んできて空トレーラーを引き取り、空トレーラーが実入りになる頃に次の空トレーラーを運んできて実入りトレーラーを引き取る。これが〝ドロップ&プル〟方式である。 つまり、北米のトラック輸送のドライバーには、基本的に手待ち時間も荷役時間も発生しないのである。筆者が〝ドロップ&プル〟方式を取り込んでこなかったことが日本の物流の近代化の阻害要因となり、24年問題の主要因の一つとなっていると申し上げた理由が、ご理解いただけただろうか? ■日本のトレーラー輸送の実態 このような〝ドロップ&プル〟方式を世界中に広めたのがトレーラーからシャーシを外して箱だけにしたコンテナを国際間輸送に用いた国際コンテナ輸送であり、それが欧州やアジアの各国の国内貨物輸送にも影響を与え、近年のそれら地域のトラック輸送もコンテナ・トレーラー輸送が中心となっているのである。 それでは、日本のトラック輸送はどうなっているのだろうか。それをご理解いただくために、表をご覧いただきたい。 この「トラック輸送状況の実態調査」におけるドライバーやトラック運送事業者の自由記述の内容に鑑み、表のトレーラーにはオンシャーシの国際海上コンテナも含まれていると考えて良いであろう。 ご覧の通り、まず指摘しなければならないのは、運行数で見たトレーラー輸送の割合(構成比)が8―10%と、極めてシェアが小さいことであろう。 次に、トレーラー輸送においても、他のトラック輸送とさほど変わらない手待ち時間や荷役時間が発生していることであろう。すなわち、欧米やアジアの国々とは異なり、日本においてはトレーラー輸送の利用頻度は極めて低く、たとえトレーラー輸送が利用された場合であっても、ドライバーは手待ち時間からも荷役時間からも解放されていないのが実態なのである。 ■物流の労働生産性向上に不可欠 本連載第126回(2月15日付)において筆者は、日本では海上コンテナはドア・ツー・ドアの一貫輸送ではあまり利用されておらず、港湾背後地などに立地する物流事業者の上屋や倉庫、保税蔵置場などでバンニング(コンテナ仕立て)・デバンニング(開梱)が行われているのが実情であることを指摘させていただいた。 そして今回筆者は、いくらドア・ツー・ドアの一貫輸送が普及したとしても、〝ドロップ&プル〟方式によりトラックドライバーを手待ち時間や荷役時間から解放しなければ、日本の物流の労働生産性をグローバル・レベルに改善させることは極めて困難であることを指摘させていただきたい。 (NX総合研究所リサーチフェロー) =隔週掲載 たさか・みきお 78(昭和53)年中央大法卒、日本通運入社。83年貿易研修センター(IIST=Institute of International Study & Training)卒。通算17年間の米国日本通運(現NXアメリカ)勤務などを経て、09年日通総合研究所(現NX総合研究所)入社、14年専務取締役。18年から現職。68歳。
日本海事新聞社