キャストも脚本も監督も超一級品…Netflix「地面師たち」が地上波ドラマを圧倒して変わる風景
目が離せなくなるストーリー
7月25日よりNetflixにて配信中のドラマシリーズ「地面師たち」が“悪魔的面白さ”で大ヒット中だ。視聴回数トップを独走している。視聴者が地上波のドラマから動画に流れるきっかけになるのではないか。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】 【写真】実際の「地面師」事件の土地に誕生した高級タワマン。舞台となった古旅館「海喜館(うみきかん)」の外観も
「地面師たち」は1回当たり約1時間前後で計7回。説明的要素のある第1回こそストーリーがやや緩慢だが、第2回以降はスピーディかつスリリングに進み、目が離せなくなる。多くの人が一気見するのではないか。 タイトルの通り、地面師たちの物語である。地面師とは土地の所有者になりすまし、架空の土地取引によって金銭を騙し取る詐欺師のこと。2017年、積水ハウスが55億5千万円を地面師に騙し取られ、その存在が広く知れ渡った。 この作品は積水ハウス事件をモチーフにしている。地面師グループが架空の企業・石洋ハウスから112億円を騙しとろうとする。 地面師集団のリーダーは豊川悦司(62)が演じるハリソン山中。 物静かで常に冷静な男だ。メンバーに居丈高になることもない。だが、実際には冷酷なエゴイスト。良心というものが存在しない。強力な悪玉である。 辻本拓海(綾野剛)は現場リーダー。やはり口数は少なく、いつも平静。地面師をする前は一晩30万円の高級店に勤め、女性の送迎を行うドライバーをやっていた。ハリソンとは違い、人間味がある。地面師に騙されたことがあり、それによって妻子を失った。 地面師集団の生態を描いただけでは面白い作品にはならなかったはず。その手口は知れ渡っているからだ。この作品は地面師たちの人物像とグループ内の人間関係を克明に描写しているから、引き込まれる。しかもストーリーが想定外の連続で先が読めない。 ヤクザなどアンダーグラウンドの世界も活写しているのも魅力だ。作品全体が「ミンボーの女」(1992年)など故・伊丹十三監督の世界観を想起させる。リアリティに拘っているところも伊丹作品に近い。元副社長が自死したライブドア事件(2005年)などに触れている。 後藤善雄(ピエール瀧)は元司法書士で土地に関する法律に精通している。荒っぽい関西弁を使い、土地取引の場でウソがバレそうになると「そんなのどーでもいいやろ!」と相手を威圧する。ときにはストレートに脅す。オラオラ系の男である。 ピエール瀧は2019年に麻薬取締法違反で懲役1年6カ月、執行猶予3年の有罪判決を受けたあと、テレビの仕事には復帰していない。 それでも2013年にブルーリボン賞を得るなど俳優としての評価は高い。制作側はどうしても起用したかったのだろう。この役はハマっている。