28年前アポなしで訪ねてきた情熱社長 ワタミ来期5%の賃上げへ
【経営者目線】 「丸亀製麺」などを展開するトリドールホールディングスの粟田貴也社長とニッポン放送の番組で対談した。出会いは28年前だ。私の講演会を粟田さんが聞きにきて終演後、控室をアポなしで訪ねてきて「お話を聞かせてください」と言われた。その時の熱意はよく覚えている。 当時、郊外型の焼鳥店を経営していて、ワタミが上場したときの新聞広告を壁に貼り「自分もこうなるんだ」と繰り返しイメージし続けたという。今では世界30の国と地域で2000店舗を展開している粟田さんだが、創業資金は私と同じ佐川急便のセールスドライバーでためた苦労人だ。 丸亀製麺は粟田さんの父親の地元、香川県にあった讃岐うどんのセルフの業態をまとめたものだ。「おいしい商品を提供するのはもちろん、麺をつくるシーンがあり、できたてを食べる体験を売りにしている飲食店は少ないと思った」と明かす。 和民もチェーン居酒屋でありながら、手作り、有機野菜にこだわり支持された。非効率だと思うことこそ経営では最大の差別化だ。 私の人生を振り返っても9割は運だが、粟田さんも、運や偶然をつかんでいる。焼鳥店で上場を考えていた中、鳥インフルエンザが襲い、うどん店に軸足を移した。ちょうど、ショッピングモールの建築ラッシュでフードコートに「体験型のうどんを出したら大ヒット」、全国からオファーが殺到し、06年に念願の上場を果たした。月1億円売り上げるホノルルの丸亀製麺もジョギング中に偶然見つけたという。 しかし、運を引き寄せる生き方をしている。まず、ニコニコしていて、人相がいい。そして、楽屋を突然訪ねてくるような行動力だ。あの日の講演会に1000人は来ていた、アポなしで楽屋を訪ねてきたのは、もちろん彼ひとりだ。 さらに、上場という夢をカラーで描き潜在意識に刷り込んでいた。私も焼肉の全米進出の準備で米ヒューストンに渡った際に、偶然、サブウェイが日本でのパートナーを探しているとアプローチを受けた。焼肉で全米進出するという行動をしていなかったら「ワタミのサブウェイ」は実現していなかっただろう。 ワタミは14日に中間決算の会見を開いた。来期5%の賃上げの方向性を発表した。サブウェイへの注目が集まるなか、あるネットニュースを見ていたら経済ジャーナリストが「マックと肩を並べる国内3000店への道筋は険しい、人手不足が逆風だ」と批評していた。当然、そんなことは見越している。
創意工夫で二律両立させるのが経営だ。来年早々、ウルトラC的な発表で人手不足に手を打つ発表を準備している。ワタミ創業40年、今回の決算会見は名実ともに第二の創業となった。佐川急便で資本金をためたあの頃と情熱は同じだ。日本一のうどんチェーン丸亀製麺と、日本一のサンドイッチチェーンサブウェイ、競い合っていきたい。 (ワタミ代表取締役会長兼社長CEO・渡邉美樹)