強制引退直前の“奇跡” ガールズケイリン史上最高144万円車券を演出「競輪の神様は見ていてくれた」/猪子真実さんインタビュー後編
2024年6月末、ガールズケイリン2期生の猪子真実さんが代謝制度により引退した。12年間の現役生活で通算21勝。一度も優勝はなかったものの、5月にはガールズケイリン史上最高配当144万円車券の立役者となり話題を集めた。引退後はネット配信などに出演し、競輪の魅力を発信している。インタビュー後編では2015年にガールズケイリンで代謝制度が導入されてからの猪子さんの歩みを聞いた。
何度も訪れた“強制引退”のピンチ
2015年からまだ選手数は少なかったガールズケイリンでも『代謝制度』が始まった。これにより半年に1度、成績下位3名が強制的に引退となってしまう。 猪子にもピンチは何度か訪れたが、その都度レースを読む嗅覚をフルに働かせて好位を確保し、上位着を取って“クビ”を回避した。選手生命を延ばすターニングポイントとなったレースは鮮明に覚えている。2019年4月松戸最終日の一般戦。同期・杉沢毛伊子の先行にマークして2着に入った。 「ハマさん(杉沢毛伊子)の自力は付いて行きやすかった。同じような地脚タイプなんです。このときの2着は忘れられません」 2021年10月函館2日目の2着もそうだ。 「この時はスタートで誰も出なかったので、意を決して前に出た。そうしたらふーちゃん(奥井迪)が前に来てくれて突っ張り先行。すごく強かったな。自分は付いて行っただけなのにヘトヘトでした。同県の清水(広幸)さんがふーちゃんに『真実を連れて行ってくれてありがとな』って言っていた(笑)。その後からですかね、ふーちゃんと仲が良くなったのは」
続いた落車が運命の分かれ道に…
こうしてギリギリのところで代謝を回避してきたが、2022年は度重なる落車に見舞われた。4月の松戸、6月の立川、10月の松山と1年間で3回落車。これが猪子に競走への恐怖心を植え付けてしまう。 「練習は休まずやっているんだけど、落車が続くとレースが怖くなってしまうんですよね…。自分でも苛立ちをコントロールできなかった。10月の松山での落車したとき、(山原)さくらが医務室に来て『真実さん、怒っているから大丈夫』って声をかけてくれて。本当ならシュンとなってしまうところだけど、怒っているくらいだからまだ気持ちは切れていないと」 しかし闘争心とは裏腹に、レースになると恐怖心が上回ってしまう日々が続いた。長引く不振で代謝制度の対象となり、猪子の競輪人生は2024年前期をもって終わりを迎えることになった。 「最後のほうは、もう選手生活は終わりだなと察していました。正直『絶対に残りたい』とは思っていなかったけど、周りの人たちは違いました。『絶対に諦めるな』って声をかけてくれて…。だから練習だけは休まずやっていました」