「有名神社が軒並み“断層”の上に鎮座している不思議」を考察した『火山と断層から見えた神社のはじまり』の著者が注目した4つのポイント
■ポイント3「温泉」 花仙山のふもとにあるのが、観光地として有名な玉造温泉です。「出雲国風土記」にもしるされているこの古い温泉は、出雲大社の宮司をつとめる出雲国造が、代替わりのときに潔斎することが定められていた神聖な場所です。 諏訪大社の鎮座する諏訪地方は、温泉観光地という印象は薄いかもしれませんが、実は熱海、別府に匹敵するほどの湯量を誇る温泉地です。 世界遺産となった熊野本宮大社の鎮座地の周辺は、古代にさかのぼる有名な温泉エリアです。熊野カルデラ(あまりに昔のことゆえ今は痕跡が乏しいのでピンとこない向きも多いでしょう)の亀裂をとおして、摂氏90度以上の温泉が現在も湧出していると説明されています。
■ポイント4「断層」 日本列島は世界屈指の活断層エリアであり、「地震列島」の異名をもちます。地震は百害あって一利なしの絶対悪のように思われがちですが、こちらにも恵みの一面はあります。 億年単位の過去からの断層活動すなわち地震のくりかえしによって、直線的地形(リニアメント)の山並み、谷筋が形成されています。諏訪をはじめ、その地形は自然発生した「道」であり、旧石器時代、縄文時代の人びとがその道を使って黒曜石や翡翠など貴重な鉱石を運び、往来しているのです。 いよいよ、この記事の最大の主眼について述べますが、日本列島を貫く最大の活断層帯である中央構造線に沿って、諏訪大社、伊勢神宮など歴史ある神社が鎮座している不思議な事実があります。これについては、いみじくも本書の親本(単行本)発売2日後にあたる2021年8月21日放送のNHK『ブラタモリ』「諏訪~なぜ人々は諏訪を目指すのか?」の回で、タモリさんが言及されたので驚きました。本書217ページに掲載の「二大構造線に沿った神社と鉱物産地」とそっくりの図がテレビ画面でも紹介されたのです。
タモリさんは「断層の上ってのは人が感じるのでしょうね」と諏訪の地に立って仰っていました。本書が追いかけたテーマもまさにそこです。出雲大社でも、参道と交差して「大社衝上断層」が走っています。 なぜ人が祈り、祀る場所がそこなのか。原初的な理由がないはずがない。 さきほど、伊勢の辰砂の話をしましたが、私たちは朱色の鳥居を目にするだけで聖なる気配を察知します。そうした感覚は、いつの時代にさかのぼるのでしょう。 伊勢地方の辰砂は、朱色の塗料として縄文時代から利用されており、関東、東北にまで運ばれていた痕跡があります。朱の鉱石を求めて、列島各地の縄文人が伊勢を訪れていたこともわかっています。 そこに伊勢神宮よりもはるかに古い、聖地としてのはじまりを見ることができるのではないでしょうか。 [レビュアー]蒲池明弘(歴史ライター) 1962年、福岡市生まれ。早稲田大学卒業後、読売新聞社に入社。東京本社経済部、さいたま支局などに在籍し、中途退社後に一人出版社の桃山堂株式会社を設立。神話や伝説が歴史と交差する可能性の探求をライフワークに据え、執筆、刊行を重ねる。『火山で読み解く古事記の謎』『邪馬台国は「朱の王国」だった』(いずれも文春新書)はいずれも重版がかかるヒットに。愛読書は『柳生武芸帳』『古事記』『かもしかみち』(藤森栄一)『柳田國男全集』 協力:双葉社 COLORFUL Book Bang編集部 新潮社
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