宮沢りえ、尾野真千子、蒼井優、広瀬すず…「阿修羅のごとく」で奇跡のキャストが実現した背景
「他の監督には撮らせたくない」是枝監督の「阿修羅のごとく」への思い
――是枝監督にお願いしたのは、向田さんの作品がお好きで、「阿修羅のごとく」のシナリオをテキストとしてワークショップをやっていらっしゃったからだそうですが、もともと是枝監督と面識がなく、八木さん自身が「分福」さん(是枝裕和が、西川美和らと共に2014 年に立ち上げた制作者集団)の電話番号を調べて連絡を取られたそうですね。八木さんからの直接の依頼であることに驚きましたが、主軸が映画の是枝監督に連ドラをお願いすることに懸念などはありませんでしたか。 八木P:正直、連ドラは勝手が違うところも多いので、難しいだろうなと思っていました。それで、当初は頭の2本分くらいを是枝監督が撮って、あとは他の監督にお願いする方法もあると思っていたんです。それが最初に是枝監督にお会いしたときに「全部撮る」とおっしゃっていただいて。こちらとしては、世界の是枝監督だからという先入観があり、まさか全部撮っていただけるとは思っていなかったので、「阿修羅のごとく」への是枝監督の強い思い入れを知り、嬉しかったですね。 ――是枝監督は「阿修羅のごとく」を他の監督には撮らせたくないとおっしゃったそうですね。 八木P:そうなんです。実は、その前にもどこからか「阿修羅のごとく」をやるらしいという噂を耳にして、他の監督自らの売り込みもあったんですよ。 ――それでも是枝監督に撮ってほしいという思いが八木さんの中にあったのですね。 八木P:もちろんです! 世界の是枝監督ですからね。それに、これまで監督が撮られてきた作品は「家族」をテーマにしたものが多かったと思います。
八木さんが一番好きなシーン
――八木さんが特に好きなシーンは、どこですか。 八木P:第6話の滝子(蒼井さん)が咲子(広瀬さん)のことを心配するシーンですね。「きょうだいって、へんなものね。ねたみ、そねみも、すっごく強いの。そのくせ、きょうだいが不幸になると、やっぱり、たまんない」というセリフがあって。喧嘩もするけど、きょうだいならではの優しさみたいなものが伝わるとても素敵なシーンでした。 ――原作には当時の時代性として、男尊女卑を感じさせる描写もありますが、今回はアップデートされ、それぞれ女性の自立の物語としての色味が強まっています。蒼井優さん演じる男っ気がない図書館司書の三女・滝子と、滝子が父の愛人調査を依頼する興信所の調査員・勝又(松田龍平)の関係性が、現代では多くの女性の理想である気もします。 八木P:なるほど。そこは意識していませんでしたが(笑)、蒼井さんと松田さんがすごく良いんですよね。演出で+できる部分とそうでない部分があって、滝子と勝又のシーンはこのお二人だからこそ醸し出されている魅力的な雰囲気があると思います。 ◇続く後編【「阿修羅のごとく」プロデューサーが語る、日本のドラマに多様性がなくなっている根本的な理由】では、八木プロデューサーが現場で垣間見たもの、そして時代を超えてホームドラマを作り続ける彼の思いに迫る。 Netflixシリーズ「阿修羅のごとく」は1月9日独占配信
田幸 和歌子(フリーランスライター)