週刊文春・新谷学編集長が語る「動ける人」と「動けない人」の違い
ビジネスで成功したい、と考える人は多いが、実現するためには、何よりもまず行動を起こさねばならない。経験や知識不足など、二の足を踏ませる要素はいくらでもあるなかで、実際に動き出すために何が必要なのか。スクープ連発の「週刊文春」を率いる新谷学編集長は「とにかく走り出して、走りながら考える姿勢」だという。3月に著書「『週刊文春』編集長の仕事術」(ダイヤモンド社)を刊行した新谷編集長に、「動ける人」と「動けない人」の違い、動く部下に必要な上司の務めを聞いた。
東京都千代田区紀尾井町にある文藝春秋に、新谷編集長を訪ねた。新谷編集長は、メディアでは顔出しNGの人物として知られる。かつて、テレビにもさかんに出演していた名物編集長の花田紀凱(かずよし)氏が退任した後、後任の編集長が苦労したという経験から、自らの存在が雑誌より前に出過ぎないよう気をつけているのだという。 姿を表した新谷編集長は、青いジャケット、ノーネクタイのこざっぱりとした格好で、髪の毛は短く刈り込んでいた。眼鏡の奥には、鋭い眼光があったが、表情はにこやかだ。「私ももう編集長6年目。人事異動でいつ交代するかわからないでしょう? その時、私の色がつき過ぎていると、後の編集長が非常にやりにくくなりますからね」。夜道で襲われることを警戒して、メディアでの露出を避けているわけではないらしい。 2012年に週刊文春編集長に就任。以来、舛添要一前東京都知事による政治資金の公私混同問題や、タレントのベッキーと人気バンド「ゲスの極み乙女。」のボーカル・川谷絵音との不倫騒動など、数々のスクープを世に放っている。そんな人物は、「動ける人」をどう見ているのか。
週刊誌の仕事はあわただしく、立ち止まって考える暇がない。新谷編集長は、「常に走りながら判断を下す習慣を身につけられる人が記者に向いています。走り出す前に考えてしまって、『それに何の意味があるのか』『どうせ話してくれるわけがない』と走れない理由を考える人は向いていない」。これが「動ける人」と「動けない人」の違いだ。 週刊文春では社員記者の場合、政治や経済、芸能などさまざまな分野への対応が求められる。「万全の準備を整えようとしたら1週間があっという間に終わってしまいます。勉強不足だと言われても、『教えてください』と食い下がってずうずうしく話を聞く姿勢を持たないと。一度断られてすぐにへこんでしまっては仕事になりません」。 「上司に言われてやらされている仕事」という受け身の意識では、粘れない。必要だと強調するのは、「当事者意識」だ。「この仕事は自分の現場だ、成果をあげねば仕事が完成しない、という当事者意識を持てば、1回断られたからといってすぐには諦めません」。 話したがらない人からどうやって話を聞くか。知恵を絞り、手を尽くす。新谷編集長の駆け出しの記者時代の経験は、たとえばこうだ。突然降り出した雨の中、話を聞きたい取材相手の家を傘もささずに訪ねた。そうすると、ずぶ濡れで立ち尽くす姿を見かねて「いいから入りなさい」と中に招かれ、ようやく話を聞けた。 だからと言ってわざと傘をささずに行くのはさすがにあざといが、人に可愛がってもらえるような人柄や愛嬌は大事だという。