週刊文春・新谷学編集長が語る「動ける人」と「動けない人」の違い
一方、上司の側には、部下が担当する任務の必要性や、ゴール地点をきちんと示すことが大切だと言う。その方がモチベーションが高まり、仕事の精度も上がる。 取材班をたばねるデスク陣は、編集長の部下だ。ネガティブな情報があった時にもデスクの方から報告しやすいような信頼関係づくりに努める。デスクにも、取材班の記者たちと同様の信頼関係を築くよう求め、現場の記者とデスク、新谷編集長のあいだで情報が速やかに伝わる体制を整える。 全力で仕事をした結果、部下が“空振り”しても決して責めない。次のバッターボックスに立つチャンスを与える。「中途半端に当てにいくのではなく、思いっきり尻もちをつくくらいに空振りしてはじめてわかることがある」といい、繰り返すうちにいつか打てる時がくると信じている。 社内の人事異動時に、前の部署で必ずしも評価が高くなかった社員が配属されたとしても、予断は一切持たない。最初の面談では「これからの仕事だけを見せてもらうので、とにかくがむしゃらに頑張ってほしい」と告げるのが常だ。結果、もともと持っていた力を存分に発揮し、周囲が驚くような大きな成果をあげるケースはよくあるという。 「『明るく楽しく激しく』仕事をできるようにするのが上司の仕事。全日本プロレスと同じですね」と笑う。全員が常に全力で戦える環境を整えるよう、編集部内にはきめ細やかに気を配る。
3月に発売した書籍の帯には、「みなさんが、それぞれのバッターボックスで『フルスイングしてみようか』という気持ちになってくれたら著者として最高にうれしい」と、読者へのメッセージが記されている。 「中学、高校と野球をやっていたので、どうしてもたとえが野球になってしまう」と少し照れる新谷編集長。「フルスイング」とは、リスクを恐れず大きな成果(ホームラン)を狙う、という意味で、「空振りのリスクもあるが、大きな成果をあげる可能性があるなら振るべきです。私は常にフルスイング主義」 毎号毎号ホームランが打てるわけではない。自信をもって送り出した号が思いのほか売れない場合も。少し落ち込む時もあるが、仕方ないと割り切って一晩寝たら忘れる。意識的に気持ちを切り替えて次にのぞむ。リーダーが暗い顔だと、組織も暗くなってしまうためだ。 デスクや現場の記者とともにフルスイングで雑誌を作れる幸せをかみしめながら、日々仕事に取り組む。週刊文春というブランドを守り、次世代に引き継ぐのが今の最大のモチベーションだ。 「自由で、誰からも強制されず、言いたいことを存分に伝えられる週刊文春を、心の底から愛しています」 (取材・文:具志堅浩二)