「美少女」から取りこぼされたキャラクターとは。BUGで『キャラクター・マトリクス』開催中
自然の災禍と人間の営みの対比
会場は、大きく「地上」と「地下」に分けることもできる。「地上」に展示されている作品は、人間の力が及ばない自然の災禍をイメージ。それは、さまざまなモンスターや怪獣として表現される。「地下」は人間の営みとして、呪術的なモチーフが散りばめられている。 「地上」の作品として、谷村メイチンロマーナはカートゥン(※)の特徴を感じるモンスターを、発泡ウレタンを使った半立体的な絵画作品と、グルーガン(グルースティック)を織り重ねてつくった立体作品で表現する。 ※英語で漫画や風刺画、下絵等の意味を持つ言葉。一般的には、海外圏のアニメに見られるダイナミックなデフォルメ表現のイラストのことを指す。 谷村は自称「ソフビやカートゥンのカッコよさに魅了されたクレイジー・クリエイター」。立体作品は質感のためにソフビと同じ塗料を使っている。そのため、ソフビのツルツル感とグルーガンの凸凹感がマッチして、なんとも不思議な質感をあらわしている。ちなみに、「ヤマダーノ・オロシ」は日本神話に登場する、頭と尾が八つずつある大蛇「八岐大蛇」のもじりだという。 青山夢の作品もまた「地上」にある。ポリエステル生地を手縫いした後に綿を入れるという青山の半立体作品は、意図した凹凸と、意図しない凹凸があるのだという。質感はもこもこ、ふわふわ、ツルツル。初期のポケモンのかたちと質感が好きだと話す青山の作品からは、たしかにその独特のテクスチャーを感じることができる。 新作である『海の魔物』は八岐大蛇がテーマ。谷村の作品と共通したのは偶然だそう。
数時間に1回、水やりが必要な立体作品
「地上」のだいたい中央にそびえ立つのは、平山匠の『ハニラ』。約3日をかけて、会場に陶芸用の粘土から立ち上げた4.5メートルの怪獣だ。 『ハニラ』はウルトラ怪獣の「棲星怪獣 ジャミラ」から着想を得ているのだという。「ジャミラ」は元宇宙飛行士で、宇宙開発闘争に巻き込まれ、漂着した星の過酷な環境に適応していくなかで姿が変形してしまった――というストーリーだ。 平山は『ハニラ』に自己批判的な意味も込めているのだという。粘土からできる陶器などは人間の生活に寄り添ってきたが、その資源はこの先の減少が指摘されている。それでも粘土を使い続ける内省と、「ジャミラ」が描いた人間のエゴとを、『ハニラ』によってリンクさせている。 乾燥によってぽろぽろとこぼれ落ちる表皮は、足元の街を模した粘土から補給されるうえ、数時間に1回、平山によって水やりが行なわれる。人間によって振り回されてきた粘土が、今度は平山を振り回す、逆転の関係性が立ち上がる。