8月公表までの「雇用調整助成金」不正受給 1,371件、愛知県が181件で全国ワースト、飲食業、建設業が上位に
雇調金等の不正受給公表は累計1,371件
各都道府県の労働局が公表した雇調金等の不正受給は、2024年8月31日までに1,371件に達した。支給決定が取り消された助成金は累計445億7,472万円で、1件当たり3,251万円にのぼる。 2024年7月は60件で2カ月ぶりに60件台に乗せた。2024年1-8月の累計は452件、月平均56.5件で、前年同期の累計443件を上回っている。 不正受給の内訳は、「雇調金」だけの受給が790件と約6割(構成比57.6%)を占めた。また、パートタイマー等の雇用保険被保険者ではない従業員の休業に支給される「緊急雇用安定助成金」のみが186件(同13.5%)、両方の受給は395件(同28.8%)だった。
愛知県が都道府県別で最多、2位の東京都との差を広げる
地区別では、関東が512件(構成比37.3%)で最も多い。次いで、中部269件、近畿243件、九州113件、中国95件、東北56件、四国43件、北陸25件、北海道15件の順だった。 前回調査(2024年7月発表)からの増加率は、九州が10.7%増(102件から113件)で最も高く、東北と中部が9.8%増で続く。一方、北海道は5月以降、4カ月連続で公表が無い。 都道府県別の最多は、愛知県の181件だった。前回調査(159件)から22件増え、2位の東京都(166件)との差を広げた。次いで、大阪府161件、神奈川県110件が続き、4都府県が100件を超えた。このほか、千葉県61件、広島県60件、福岡県52件、栃木県51件、埼玉県41件、三重県38件、京都府31件、新潟県29件、宮城県27件の順。 ※ 各都道府県の労働局が公表した所在地に基づいて集計しており、本社所在地と異なる場合がある。
産業別 サービス業他が約5割、そのうち3割が飲食業
雇調金等の不正受給が公表された1,371件のうち、TSRの企業情報データベースで分析可能な1,032社(個人企業を一部含む)を対象に、産業別と業種別で分析した。 産業別で、最多はサービス業他の465社(構成比45.0%)だった。次いで、建設業131社(同12.6%)、製造業120社(同11.6%)の3産業が100社を超えた。以下、卸売業71社(同6.8%)、小売業70社(同6.7%)、運輸業66社(同6.3%)が続く。 細分化した業種別は、最多が「飲食業」の143社(同13.8%)。次いで、「建設業」が131社、人材派遣や業務請負など「他のサービス業」が101社で続き、上位3業種で100社を超えた。 このほか、旅行業や美容業など「生活関連サービス業,娯楽業」77社、経営コンサルタント業などの「学術研究,専門・技術サービス業」70社、「運輸業」66社、ソフトウェア開発などの「情報サービス・制作業」47社が続く。 ◇ ◇◇ コロナ禍の営業自粛や人流抑制などで、対面型サービス業を中心に著しい影響を受けた。こうしたなかで従業員の雇用維持のため、事業規模を問わず雇調金を利用した企業は多く、事業存続と雇用の下支え効果は大きかった。 コロナ禍での迅速な支給実現のため、手続きの簡素化に踏み切った。だが、これを逆手に取り、申請過誤だけでなく不正受給が頻発した。厚生労働省によると、各都道府県労働局の遡及調査で発覚した不正受給は、2024年6月末で3,365件、支給決定取消金額は760億4,000万円に及ぶ。 不正受給のうち、支給決定の取消し金額を問わず悪質な事案と判断された場合、社名や代表者名等が公表される。さらに、詐欺罪で法人だけでなく代表者も刑事責任を問われる事態も発生。歴代2位の不正受給事件となった(株)水戸京成百貨店(2023年2月、受給額10億7,383万円)は2024年1月、元社長が茨城県警から詐欺容疑で逮捕されている。 雇調金の手続き簡素化を認めた特例措置は2023年3月、終了した。だが、不正受給の公表は後を絶たない。不正受給を公表された企業は、コンプライアンス意識やコーポレートガバナンスの欠如した企業として、取引先や金融機関からの信用低下を避けられない。また、違約金と延滞金を受給金額に加えて返還する必要があり、資金面への負担も小さくない。 雇調金等は、事業主と従業員の双方が負担する雇用保険料のうち、事業主負担分を積み立てた「雇用安定資金」を主な財源とするセーフティーネットだ。公平な制度運営には、制度を悪用した不正受給に厳しい姿勢で臨むことが必要だ。