生前贈与を受けても相続放棄できる? 注意点やリスク、対策を弁護士が解説
親から生前に財産の一部の贈与を受けていた人が、親の死後に借金などが見つかった場合、相続放棄はできるのでしょうか? 実は、生前贈与と相続放棄は無関係の手続きのため可能です。ただし、リスクや注意点があります。弁護士が解説します。
1. 生前贈与とは
生前贈与とは、自身が生きている間に、配偶者や子、親族などに自己の財産をあげることをいいます。贈与する財産について制限はありませんので、現金や預貯金に限らず、株式や不動産などを生前贈与することも可能です。 また、毎年110万円以内の範囲で生前贈与を行えば、その範囲では非課税となりますので、節税対策として利用されることもあります。 なお、生前贈与は、相続放棄と異なり、裁判所での手続などは不要です。
2. 生前贈与を受けた場合でも相続放棄は可能
相続放棄とは、相続の対象となる財産や債務を承継しないことをいいます。生前贈与と異なり、裁判所での手続きが必要です。具体的には、管轄の家庭裁判所に対し、相続放棄の申述書を提出し、家庭裁判所がこれを受理すれば、相続放棄が認められます。 相続放棄は、生前贈与と無関係の手続きです。したがって、生前贈与を受けた後に相続放棄の手続きをとることもできます。
3. 生前贈与を受けて、相続放棄を検討するケース
親の財産状況に大きな変化があったケースが想定されます。 例えば、親が事業を営んでおり、その事業が好調であったため、生前に親から1000万円の生前贈与を受けていたものの、その後、新型コロナウイルス感染症の影響で親の事業がかたむいてしまい、多額の借金を背負うことになった場合です。 親の死後、この借金から逃れるためには、子は相続放棄を検討することとなります。
4. 生前贈与を受けた後の相続放棄のリスクや注意点
生前贈与を受けた人が相続放棄することは可能ですが、リスクや注意点もあります。 4-1. 詐害行為取消権を行使される可能性がある 親に多額の借金があることを知っていながら、生前贈与を受け、死後に相続放棄をした場合、債権者が「詐害行為取消権」を行使する可能性があります。 詐害行為取消権とは、債務者が債権者を害することを知っていながらした行為について、債権者が、その行為の取消しを裁判所に請求することができるというものです(民法424条1項本文)。 例えば、親にプラスの財産が1000万円、借金が1500万円あり、そのことを親だけでなく、子も知っていたとします。その状況で親がプラスの財産1000万円を全て生前贈与した場合、親の借金の状況はさらに悪化し、債権者は借金を回収するのが難しくなります。 このようなケースでは、相続放棄の有無に関係なく、詐害行為として生前贈与が取り消される可能性があります。 4-2. 相続放棄には3カ月の期限があり、撤回もできない 相続放棄については、相続の開始があったことを知ったときから3カ月以内に家庭裁判所に対し、相続放棄の申述書を提出する必要があります。ただし、この3カ月の期間内であっても、相続財産の全部又は一部の処分を行った場合、相続人は単純承認をしたものとみなされてしまいます。 相続財産の処分とは、例えば、相続財産である預貯金を引き出すこと、不動産の名義を変更することなどです。これらの行為があれば、単純承認として、相続を認めたことになります。特に、当面の生活費の捻出のために相続財産に手を出してしまうと、単純承認となってしまうため、注意が必要です。 相続放棄の申述書を家庭裁判所に提出してから認められるまで、1カ月ほどかかります。この間であれば、申立てを取り下げることができます。しかし、一度相続放棄が認められてしまうと、これを撤回することはできません。 4-3. 生前贈与後に相続放棄をしても、持ち戻しで相続税がかかることがある 贈与してから一定期間内に贈与者が亡くなると、その生前贈与はなかったこととされ、相続税の課税対象となります。これは、贈与者の死後に相続放棄をしたとしても免れることはできません。 贈与税の課税方法の一つである「暦年課税」では、その年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けた財産の価額の合計額から基礎控除額110万円以下まで無税です。しかし、一定の期間内に行われた生前贈与については相続財産に持ち戻されて、相続税が課税されます。 なお、この期間は2023年12月31日までに行われた贈与については「3年」でしたが、2024年1月1日以降は段階的に引き上げられ、2031年1月1日以降の贈与は「7年」となります。 一方、もう一つの贈与税の課税方式である相続時精算課税制度の贈与については持ち戻しされることはありません。詳しく知りたい方は以下の記事を参考にして下さい。