入場収入約23億円が消えてしまう…9年連続黒字達成の”ビッグクラブ”浦和レッズでさえ経営危機感
他のプロスポーツに先んじる形で、Jリーグは2月下旬からすべての公式戦を中断している。3度設定された再開目標はすべて流れ、いま現在は白紙状態に戻されている。Jリーグの村井満チェアマンは23日の臨時合同実行委員会後に、予定通り来月6日に緊急事態宣言が解除されることを前提として、最短で再開される場合は6月13日、無観客での開催になる見通しを語っている。 無観客試合となれば、シーズンチケットを除いた入場料収入はゼロになる。加えて、原則として開幕前に料金が振り込まれるシーズンチケットに関しても、レッズは公式ホームページ上で「通常のご案内ができない試合は、シーズンチケットを払い戻しの上で別途優先販売を実施するなどの方策を検討しております」と、今後の事態の推移に合わせた施策が取られることが告知されている。 AFCチャンピオンズリーグ(ACL)を初めて制した2007年度には30億円を突破するなど、2005年度以降におけるレッズの入場料収入はハイレベルで推移してきた。20億円を下回ったのは5度だけで、営業収入に占める入場料収入の割合は他のJクラブと明らかに一線を画している。 公式戦が中断された直後から危機感を抱いてきた立花社長は、レッズが置かれた状況を「非常に大きなリスクを抱えていると認識している」と位置づけた上で、すでに対策を講じていると明かしている。 「大きなところで言えば、営業収入をいかに減らさないか、営業費用をいかに削減していくのか、という点をクラブ内でプロジェクトチームを立ち上げ、全員の知恵を結集する形で取り組んでいます」
2019年度決算では、広告料収入は過去最高の38億4100万円を計上した。次に多い入場料収入が大幅に減ると見越した上で、営業収入を減らさないために、出資するパートナー企業のメリットを損なわない施策や、実際に無観客試合が実施された場合でも露出を増やしていく施策が検討されている。 立花社長はさらに「唯一、増えるとすればEC(電子商取引)の部分になる」と明言。約9億円を計上した2019年度のグッズ収入を、増収が見込めるターゲットにすえている。 「いまは埼玉スタジアムでグッズを購入できないし、浦和駅西口の駅ビル内にあるショップも休業しています。ただ、インターネットで申し込んでいただき、お届けするEC商品だけは増やせると思っているので、クラブ全員でいろいろなアイデアを出し合って、レッズのファンやサポーターのみならず、スポーツを応援していただくさまざまな方々へ向けたものを企画・販売できればと考えています」 営業費用を削減していくなかで、ヨーロッパのさまざまなクラブで決定され、J1の北海道コンサドーレ札幌でも選手側から申し入れられた報酬の一部返上については慎重な姿勢を見せる。 「いまは村井チェアマンを筆頭にしたJリーグが何とかして、いわゆる固定費の部分に手をつけることなく、クラブの事業を存続できるところを見すえてスケジューリングやプロトコールを作っています。なので、いま現在は私たちが話をできる状態にないと考えています」 村井チェアマンは同時に、政府当局へ税制上の働きかけを行っていく方針も固めている。例えばホームで半分程度しか公式戦を開催できなかった場合、応援するクラブに協力したいという思いから、広告費の減額相当分の払い戻し請求権を放棄する選択を下したパートナー企業に、その金額分を寄付と見なした上で税額控除を受ける対象となることを可能にしてほしい、というものだ。 同じ図式を購入したシーズンチケットの払い戻しを受けない、という選択を下した企業やファン、サポーターにも適用させたいとしている。新型コロナウイルスの感染拡大を防止するために、文化芸術やスポーツのイベントが中止になった場合にチケット購入者が税優遇を受けられる対象にJリーグも含まれれば、クラブから返金される金額も圧縮される可能性も生まれてくる。立花社長が言う。 「現時点で今後がどうなるかまったく読めない状況なので、再開がいつになっても対応できるように、あらゆる事態を想定してケーススタディーをしています。そういう作業をしていかなければ、この危機的な状況を脱することはできないと思っているので」 Jリーグと所管するスポーツ庁との交渉を注視しながら、選手や首脳陣への報酬以外の営業費用から削減できるものをあらゆる方面から探り、国内有数の規模を誇る予算のスリム化を図っていく。 (文責・藤江直人/スポーツライター)