「すべてのステークホルダーがインターネット空間を健全な場にする責任を担っている」:自民党衆議院議員 デジタル社会推進本部事務総長 小林史明 氏
──この問題を解決に導く主導的立場になるのは誰か?
誰もがリーダーシップを発揮できるはずだ。すべてのステークホルダーが、インターネット空間を健全な場にするということに対し、重要な責任・役割を担っている。 そもそもインターネットとは、個人に力を与えてくれるうえ、社会をフェアにしてくれるような素晴らしいテクノロジーなはずだ。それは、私が議員となる前に携帯電話事業会社で働いていたとき、強く感じたことでもある。この素晴らしいテクノロジーを国民のほとんどが使用しており、その恩恵を受けている。そして言わずもがな、多くのインターネット上のサービスは広告収入により、無料あるいは安価で利用者に提供することができる。 デジタル広告に関わる人たちが、この産業を良い構造にしようという取り組みは、民主主義を良いものにすることと直結している。デジタル広告の関係者にはこうした認識を持ってもらえると、私は信じている。今回、政府が介入して構造を立て直したとて、また別の場所でプラットフォームにおける新たなジレンマが起こり得る可能性はある。だからこそ、それぞれの視点で皆がリーダーシップを発揮していくことを期待したい。
──政策立案にあたり、参考にしている他国の法律・方針はあるか?
前述のEUのDSA法を非常に参考にしている。グローバルなプラットフォーマー、つまりビッグテックのユーザーは1国家の国民よりも多い。そう考えると、影響力は膨大だ。では、どう対処するべきか? 日本と諸外国が連携して、一緒になって良い制度の設計をしていくことが重要だろう。 デジタル広告における課題の根幹は、グローバルなプラットフォーマーによるデータの寡占で、彼らとの依存関係が生まれているということだ。もちろん、問題は広告だけではなく、さまざまな分野で起こっている。昨年5月に行われたG7広島サミットでも、プラットフォーマーに対する議論は行われており、解決に向けた世界を巻き込んだ取り組みを政府としてもやっていくことになるだろう。
──最後に、AIの進化における波及についてお聞きしたい。生成AIの導入で悪質コンテンツの生成など加速度的に犯罪が進んでいるが?
テクノロジーが起こした問題はテクノロジーでカバーするのが望ましいと考えている。いま、注目されているオリジネータープロファイル(Originator Profile)という技術をご存知だろうか。大まかに説明すれば、情報コンテンツの作り手、編集者などを遡ってトレースする技術だ。こういった技術も用いて、違法広告を防止しクリエイター本人に適切な報酬が支払われるフェアな構造を目指したいと考える。 一方で、「テクノロジーで解決する」という言葉を逃げ道にしてはならない。SNS事業者とのコミュニケーションで感じたことは、とにかく彼らの方針が「テクノロジーで解決する」との一点張りであることだ。デジタル広告の課題の解決策として、なんでもテクノロジーを逃げ道にするのはナンセンスと言えるだろう。SNS 上のアカウントの凍結や今回焦点となっている広告審査のような重要な決定を、すべてAIに任せてよいのだろうか。テクノロジーの進化には可能性を信じてはいるが、すべてをテクノロジーで解決というのは乱暴に感じる。 いま改めて人間の仕事に、倫理性が問われている。そこに透明性があるのか? 効率だけを追求するのではなく、良質なコンテンツを正しく掲載し、消費者に届ける構造をいま一度考えるべきではないか。 小林 史明/自由民主党衆議院議員(広島第6区)。自由民主党において、現在はデジタル社会推進本部事務総長、新しい資本主義実行本部事務局長を務める。上智大学理工学部化学科を卒業後、2006年、NTTドコモに入社し、法人営業や人事採用担当を務めた。2012年、衆議院議議員選挙にて初当選し、現在は4期目。「テクノロジーの社会実装で、多様でフェアな社会を実現する」を政治信条とし、規制改革に注力している。 Written by 島田涼平(Edit by 遠藤祐子) Photo by 中山実華
島田涼平
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