「すべてのステークホルダーがインターネット空間を健全な場にする責任を担っている」:自民党衆議院議員 デジタル社会推進本部事務総長 小林史明 氏
──そうした規制はどのくらいで施行されるのか。目処は立っているのか?
追加の法改正が必要だ。これから法改正の議論を始めていかねばならない。とはいえ、SNSなどデジタルプラットフォームに対する対策が何もないというのは誤解だ。「情報流通プラットフォーム対処法」(以下、情プラ法)という法律が国会で今年5月に可決され、施行に向け動いている。これは、SNS等プラットフォーム事業者に対し、そのサービス上の誹謗中傷への削除申出対応や削除基準の策定・公表を義務付ける法律で、誹謗中傷への対応の迅速化と運用状況の透明化を求めるものである。 つまり、SNS事業者やサービス提供者への規制の土台はすでにできているということだ。情プラ法は、EUですでに施行されているDSA法(Digital Services Act、デジタルサービス法)を参考にしており、実行力を持たせるため、同法と比べてさらに厳しいルールとなっている。今年5月に公布されたばかりで施行は約1年後となるが、これを早めたい考えだ。場合によっては、施行時期より早期の対応を、該当する事業者に求める場合もあるだろう。
──SNSは自由な言論空間であるべきで、規制は不要という考えもあるようだ。
前述のように、犯罪が起きているならば取り締まる必要がある。違法DVDを店舗で販売している事業者に対し、違法DVD販売業者であると知っていながら、場所を提供したビルオーナーが捕まった事案もある。インターネット空間であっても、違法な広告とわかっていながら、広告を掲載するならばそれは違法行為だといえる。 サービスが完全に無料で運営されているのであればその理論はまかり通るかもしれない。ただし広告で収益を得ているのであれば話は違うのではないか。それは犯罪の幇助(ほうじょ)にあたりかねないし、そうしたサービスに広告料を払うのは、広告主にとっても果たして正しい行為なのだろうか?
──詐欺広告はもちろん、掲載面の質を問わない広告取引はデジタルマーケティング業界の課題だ。関係者に求められる取り組みは?
改めて言うが、デジタル広告の取引は民間のビジネス上のものだ。民間企業のなかで健全に運営されるものという前提がある。そのため、政治行政からなにかを強制するようなことはしたくない。ただ、前述した法改正や規制が進み、広告事業の透明性を高めるルールが明らかになったとき、広告主は、広告がインターネット上でどのようにユーザーに届けられるのか、改めて考えてほしい。 現状の広告審査における透明性の欠如は、大きな課題だと認識している。メディアやSNS事業者は、どういう基準や手法で広告を審査しているのか。それがユーザーにわかりやすく情報として提供されているか。広告主の出稿判断にあたり、違法性のある広告と一緒に掲載されないと言える根拠はあるか、運用型広告の仕組みを使う広告主は、ネットワークされている掲載先までしっかりと認識しているか。要は、ともに消費者に責任を持つ仕組みになっているか、業界全体で見直して欲しい。 このまま、現状への十分な理解を持たず、広告出稿を続けることは、自社のブランドを毀損するだけでなく、違法サイトを真っ当な広告主が買い支えることにも繋がってさえいるのだ。これはかなり重大な問題で、広告主にも責任の一端はあるだろう。広告とは、企業が提供する商品やサービスの重要なコンテンツなのではないのか? 私は、そうしたコンテンツが消費者の購買行動を決める大きな要因になっていると認識している。 今回、さまざまな広告主と話したなかで、SNSが健全になるまで広告を控えるというアクションをとろうという声もあった。ただし、広告を出稿しないと大きく売上に影響があることは言わずもがなで、実行にまで移せていない広告主が大半なのではないだろうか。 こうした歪な関係は、SNSへの依存が非常に高いために成り立っており、広告主は身動きが取れなくなっている。そこにメスを入れ、健全な構造に直すところまでが我々の役割だと考えている。
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