「東京で年収1000万円は高収入ではない」は本当なのか検証してみた
階級別にしたグラフをみると、1,250~1,499万円が一番多くなっています。これも100万円ずつの区切りから、250万円ずつの区切りに変わったためですが、単身世帯を含むグラフと比べて、収入が高い世帯の割合が増えていることがわかります。世帯収入が1,000万円以上の世帯を合計すると110万6,600世帯となり、二人以上世帯全体の約30.7%になります。 東京都では、単身世帯を省くと、約3割が年収1,000万円以上の世帯ということです。なお、全国では二人以上世帯における年収1,000万円以上の世帯の割合は16.8%となり、東京都が高いことがわかります。 ■東京での生活費 東京で暮らす年収1000万円世帯は、どのような生活をしているのでしょうか。 総務省「家計調査」から、東京都区部に住む二人以上世帯(勤労者世帯)の1か月の生活費をみてみましょう。
東京都区部の消費支出は36万5747円となり、全国平均の消費支出31万8755円よりも5万円程度多くなっています。このデータは年収1,000万円世帯のものではありませんが、実収入が73万4830円なので、年収にすると約882万円となり、年収1,000万円に近いものといえるでしょう。 ここで気になるのが住居費です。東京に住んでいるのに住居費が2万8,397円というのは少なすぎると感じるのではないでしょうか。この調査対象世帯の持家率は76.4%、家賃・地代を支払っている世帯の割合は21.3%であり、これらを合わせて平均を出しているので、必然的に住居費は少なくなってしまいます。また、持家のうち住宅ローンを支払っている世帯の割合は37.1%とこれも平均データに表れる影響は少なくなります。 そこで、住居費に関しては、他の調査を参照しましょう。不動産情報サイト「LIFULL HOME'S PRESS調べ(2024年5月掲載)」によると、東京全域のファミリー向き賃貸の掲載物件の平均賃料は約18万円、反響(問合せ)物件の平均賃料は約14万9,000円となっています。東京23区に絞ると、掲載物件の平均賃料は約21万5,000円、反響物件の平均賃料は約16万7,000円となっています。 ■東京での年収1000万円の暮らし ここまでを踏まえて、ざっくりと東京での年収1,000万円の暮らしを考えてみましょう。年収1,000万円の手取り額はおよそ70~78%なので、ここでは70%として700万円としましょう。月にすると約58万円です。住居費を引いた生活費を34万円とすると、ここに家賃の18万円を加えると生活費の合計は52万円になります。手取りから生活費を引いた残りは6万円になります。 消費支出はひと月の平均的な支出であり、突発的な支出は含んでいません。6万円では急な出費があったときに、ぎりぎり対応できるレベルでしょう。これでは貯蓄もままなりません。 賃貸ではなく、住宅ローンを組んでいる場合もそれほど変わりはないでしょう。国土交通省の「令和4年度 住宅市場動向調査報告書」によると、住宅ローンの返済額の全国平均は月14万5,000万円です。ここに管理費や修繕積立金を加えれば、先ほどの賃料と同じくらいになるでしょう。 ■まとめ 以上をまとめると、東京都の平均年収は580万7,300円であることから、年収1,000万円は高収入であることは確かです。しかし、世帯年収でみてみると、東京都の二人以上世帯で年収1,000万円以上の世帯は、約3割を占め、およそ3世帯に1世帯と考えられることから、東京で世帯年収1,000万円の壁はそれほど高くないと言っていいでしょう。 そして、東京での年収1,000万円の生活は、家が持家(ローンなし)以外は楽ではないことが試算によってわかりました。「年収1,000万円は高収入であるか」については、高収入の定義によりますが、余裕のある生活ができる収入を"高収入"と考えると、「東京で年収1,000万円は高収入ではない」といえるかもしれませんね。 ■ 石倉博子 いしくらひろこ ファイナンシャルプランナー(1級ファイナンシャルプランニング技能士、CFP認定者)。“お金について無知であることはリスクとなる”という私自身の経験と信念から、子育て期間中にFP資格を取得。実生活における“お金の教養”の重要性を感じ、生活者目線で、分かりやすく伝えることを目的として記事を執筆中。
石倉博子