裕福な家庭と低所得家庭の子どもたち、「旅行」に行ったことがあるかどうか「格差の実態」
習い事や家族旅行は贅沢?子どもたちから何が奪われているのか? 低所得家庭の子どもの約3人に1人が「体験ゼロ」、人気の水泳と音楽で生じる格差、近所のお祭りにすら格差がある……いまの日本社会にはどのような「体験格差」の現実があり、解消するために何ができるのか。 【写真】子ども時代に「ディズニーランド」に行ったかどうか「意外すぎる格差」 発売たちまち6刷が決まった話題書『体験格差』では、日本初の全国調査からこの社会で連鎖する「もうひとつの貧困」の実態に迫る。 *本記事は今井悠介『体験格差』から抜粋・再編集したものです。
旅行の格差
「文化的体験」の領域における体験格差の現状を確認していく。その中でも比較的お金がかかりやすいと考えられる「旅行・観光」と、お金がかかりにくい「地域の行事・お祭り・イベント」という二つの「体験」に注目してみたい。 まずは「旅行・観光」だ。予想通りというべきか、やはり世帯年収ごとに子どもの参加率に2倍近くの大きな差があることがわかった(グラフ14)。世帯年収600万円以上の家庭で42.8%、300万円未満の家庭で23.2%となっている。 旅行には様々な費用がかかる。交通費、宿泊費、滞在中の食費、お土産代。家族の人数や日数、旅行先にもよるが、特に泊まりの旅行の場合は数万円、数十万円というまとまったお金が必要になってくる。海外旅行ともなればなおさらで、私たちが支援してきた子どもたちの多くにとってはいまだ縁のない体験だ。 私たちがかつて塾代を支援し、現在はすでに大人になっている男性は次のように話す。彼が子どもの頃は生活保護を受給していたという。 お出かけとか旅行とか、基本何もなかった。保護を受けているときはどこにも行かないし。 こうした現実が広く存在する一方で、中高生向けのスタディツアーを企画・運営する団体の方からはこんなお話も聞いた。この社会にあるまた別の現実だろう。 これ自体は悪いことではないですが、お金のある家庭が、子どもの体験や経験を「買いにきている」と感じることは多いです。東南アジアでスタディツアーを行った際、航空機代が値上がりしていることもあり、参加費が30万円と高額な設定になりました。それにもかかわらず多くの申し込みがありましたし、なかにはご兄弟ご姉妹で申し込んだ家庭もありました。 子どもが海外も含めた色々な場所に行き、普段とは違った経験をする。そこには娯楽的な側面と教育的な側面の両方があるだろう。昨今、学力だけでなく、学生時代の活動や経験も重視される入試制度が広がりつつある。そんな中、保護者は、我が子にできるだけ多くの「体験」の機会を提供しようと考える。だが、それをすることができる親は、実際にはかなり限られているのだ。
今井 悠介(公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン代表理事)