『燕は戻ってこない』制作陣が明かす、「NHKドラマは攻めている」に対する率直な思い
NHKドラマ10『燕は戻ってこない』の最終話(第10話)が本日7月2日に放送される。 朝ドラ『虎に翼』と大河ドラマ『光る君へ』と共に、女性の生きづらさや地獄を描く3作品が奇しくも同時期に放送されることに対して、多くのドラマ好きが「NHKドラマは攻めている」と大いに沸いた。特に本作では、「代理母」という生殖医療を軸に、女性の貧困や不妊などが描かれる中、登場人物の見え方がどんどん変わり、どこに行くのか最終回までわからない展開になっている。 【写真】石橋静河演じる主人公リキの「暴走」は視聴者を驚かせた そこで、最終回直前に、制作統括の清水拓哉さん(『鎌倉殿の13人』『いだてん』他)とプロデューサーの板垣麻衣子さん(『青天を衝け』『らんまん』他)に、制作の裏話や作品に込めた思いなどを聞いた。
「NHKドラマは攻めている」「NHKにしか作れない」の声に思うこと
――『燕は戻ってこない』はプロデューサー・板垣麻衣子さんの企画ということですが、改めてこの作品が生まれた経緯を教えて下さい。 板垣麻衣子(以下、板垣):桐野夏生さんの原作が出た時にすぐに読んで、とても面白い作品だったので、ぜひドラマにしたいと思いました。桐野さんの作品はもともと好きだったのですが、生殖医療という社会的に注目度が高い今日的なテーマを軸にしながらも、命は誰のものなのか、お金で買えるものなのかなど、普遍的な問いに迫る作品をドラマにできたら面白いと思ったんです。 ――局内に企画を出したときは、どんな反応がありましたか。 板垣:企画を採択する担当者が何人かいるのですが、原作がすごく面白い、原作権がとれるならやってみたら? などと後押ししてくれる方が多かったです。それと、「ドラマ10」は笑える作品や明るい作品が多いので、たまにはこういう心がざらつくものがあっても面白いかもしれないね、と。 ――朝ドラ『虎に翼』と大河ドラマ『光る君へ』と共に、女性の生きづらさを描く3作品が同時期に放送されることに対して、「NHKドラマは攻めている」「NHKにしか作れない」といった声が多いです。 板垣:よくそう言っていただけるんですが、『虎に翼』は4月から始まったものですし、『光る君へ』も1月スタートで、私も一視聴者と同じタイミングで見始めています。『燕~』は『虎~』や『光る~』の放送よりもだいぶ前から脚本開発やプロジェクトが進んでいたので、一緒だという意識はありませんでした。 ただ、気がついたらみんな今、同じようなテーマに関心があったり、向き合おうとしているということは感じます。 清水拓哉(以下、清水):NHKだからこその企画、とよく言っていただくのですが、それは実際どういうことなんだろうと逆に質問させていただきたいところもあるんです。 ――例えば、幅広い層に向けて作るにもかかわらず、安直にわかりやすい展開にしたり、主人公をもっと共感されやすい良い人に改変したりせずに、複雑なものを複雑なままに出すことですかね。 清水:おっしゃる通りで、少なくとも内部でこの原作をやるにあたり、このリキという女性の取る行動は許し難いところがあるとか、こんな人を主人公にしたドラマは作ってもしょうがないというような声は全く出ませんでした。それも含めての人間である、ということがやりたいというのは当初の企画意図ですし、そういう作品についての許容度はあります。