『燕は戻ってこない』制作陣が明かす、「NHKドラマは攻めている」に対する率直な思い
「あなたがそう言うならそれでいいですよ」という人とやるのはつまらない
――さらに第2話で山戸結希さんが演出を手掛けられていることにも驚きました。 板垣:私はもともと山戸さんのファンで、女性の痛みや自意識みたいなものを丁寧に鋭く切り取っている監督として、いつか一緒にお仕事してみたいなと思っていたんです。 清水:内容的にも女性監督が入った方が良いだろうと思っていたとき、山戸さんというアイデアが出て。実際に台本を一緒に作っていく中で、 山戸さんのアイデアは僕らNHKドラマを作ってきた人間がなかなか考えない・発想しないものだったり、脚本の長田さんとも違っていたりすることで、非常に面白いなと思いました。もちろん、それをすり合わせていく作業はすごく大変なんですが。 例えば、チーフ監督の田中が最初の2、3話分を撮るのが定石ですが、いろいろ決めてしまった後で山戸さんがやるのは、やりづらかったり、逆にノッキングを起こしそうだなと思いました。キャッチボールをしていく中で、山戸さんは強い個性のある監督だと感じたので、この作品のトーンを定めていく序盤で 2人が並び立った方がいいだろうと思い、第1話を田中が、第2話を山戸監督がという構成にしました。その面白さはあったんじゃないかと思います。 ――具体的にどんなアイデアが出て、どんな風にすり合わせをしていったのですか。 板垣:画作りでいうと、(生殖医療エージェントの)「プランテ」は、セットもすごいですよね。あんな内装の医療機関は実際にはないと思いますが、ある程度デフォルメしたいと演出陣から提案がありました。 それで、原作にピンクと書いてあることと、ここから先は体験したことのない異世界に一線を超えて主人公たち3人が入っていくというイメージを演出側が考え、美術さんがいろんなアイデアをくれて、水槽に泡をブクブクさせたり、代表(朴璐美)にはピンクの空間に負けないピンクを着せようとなったり。さらに、上にまん丸のライトがあるのを上から撮ってみようとか、水槽の泡をリキの心情に合わせて強めたり弱めたりしようと山戸さんが言ってくれたり、照明部や撮影部がどんどんアイデアを出し合って、ふくらんでいきました。 ――NHKドラマは、美術もすごいですよね。 清水:番組によってもやり方はいろいろ違うと思いますが、僕が関わってきている番組では、徹底的に議論はしますね。逆に言うと、例えば「あなたがそう言うならそれでいいですよ」と放り出すパートナーたちとやるのはつまらないです。キャッチボールをしていく中で、我々自身が思ってもみなかったところに到達したい。めちゃくちゃしんどい作業ですけど、少なくとも僕がプロデュースしてきた作品では常にそれをやっています。 ◇続く後編「『女性の生きづらさ』を描く『燕は戻ってこない』制作陣が『男性もつらい』に対して思うこと」では、ドラマ制作における「組織論」をさらに深堀ると共に、男性である清水さんが『腐女子、うっかりゲイに告る。』『生理のおじさんとその娘』など女性の生きづらさを描く作品に多く携わる理由について聞いた。
田幸 和歌子(フリーランスライター)